山本: マーケティングに特化したAIというのは、人の心を掴んで、こういう時に人はこういう行動をとってしまう、みたいなことがわかるAIですよね、そこまでできれば、たとえば、いつ、誰が、どういうタイミングで、どこへ行きたいのかといった旅行のレコメンドや、観光業にも役立つと思います。これはうれしい時の予測ですね。

一方で悲しい時を予測すると、どういう心理状態の時にどんな辛い状態になってしまうのかといったメンタルヘルスケアのような活用もできると思っています。先生のお立場では、マーケティングAIの応用は、どのような可能性があるとお考えですか?

坂田: 難しい質問ですね。AI自体が直接人間の感情をとらえることは難しいので、感情が表現された事象を捉えているわけです。それぞれの人間が個々に意思決定したことや、考えたことを映し出したものがどれだけあるかということで発展の可能性は決まりそうです。

たとえば、今出てきているのは動画です。従来は動画の解析というのは少なかったのですが、今はできるようになってきています。音声データなども解析できるようになって、情報源が広がっています。つまり、人間の心を映す多様な情報が得られるようになってきているのです。従来は言語中心でしたが、感情の把握という面では、言語は非常に限定的で、より直接的なのは動画などです。静止画より動画の方が情報量はありますし、感情を映し出す鏡としては優れているはずです。そういう意味でデータソースが増え、ツールもでき、これから活用可能な状態になっていくので、マーケティングの可能性はまだまだわれわれが想像できないようなことがあるのではないかと思います。

山本: そうですね。言語処理はすでに究極レベルに来ていると思うのですが、データソース自体が変わってきているので、マーケティングAI自体がここで終わりではなく、まだまだ広がりそうです。

坂田: 具体的な応用先としては、たとえば政策関連で社会的合意を形成する時があると思います。みなさんも直感で知っているはずですが、同じことをいっても、どういう風に話すかで結果は違ってきます。相手の感情を考えて、「こういうタイプの人にはこういう説明が必要だ」などの分析に使えそうです。社会的合意というのは、マーケティングと同じく心の問題が非常に大きな役割を持っているので、そういうところには使えると思っています。

山本: マーケティング用に作った技術が、政策でもほぼそのまま使えるわけですね。

坂田: 今でも上手な人は、相手によって説明の仕方を変えているでしょう。それは経験値なわけですが、そのままだとマーケティングと同じく、未熟な人はいい成績をあげられない。政策マンにもマーケッターと同じようにAIを提供すれば、それほど経験がない人でも社会的合意を得るためのきちんとした話ができるのかなと感じます。

山本: 政策での活用は、マーケティングに近いことがわかりました。では、もっと他の分野はどうでしょうか?

坂田: そうですね、医療分野で使えると思います。患者は医師の顔色をとてもよく見ていますし、医師がどんな言葉で話されるかは患者さんの心に大きな影響を及ぼします。医師に対して、どういう風に話せばいいのかガイドするような使い方はあると思います。これも、まさに心の問題ですね。

山本: そうですね。心対心だけでなく、物対心という活用もできるのではないかと私は考えています。たとえば建築など、人の心をリアルタイムにモニタリングすることで、「これがここにあるから通りにくい」だとか、「こういう構造は迷いやすい」というようなことが見えてきそうです。そういった、本当にマーケティングとは違う領域で活きる使い方もありそうです。

坂田: そういう使い方をもっと広げると、街作りにつながりますね。今は建物の形や配置等のハードな要素でかなりの部分ができていて、美観などは気にしていますが、それも作る側の考えです。もっと使う人や通る人が心地よい空間を作る、都市デザインみたいな分野もあると思います。

研究テーマとして出ているものでは、犯罪の起こりやすいところと起こりづらいところを分析するようなものがあります。割れ窓理論というのが有名ですが、それだけではすべては説明できないですね。犯罪発生場所に偏りがあるとすれば、割れた窓のような小さな犯罪の痕跡の有無だけでなく、他に何か作用する要素があるはずです。犯罪も心の問題ですから、マーケティング同様に心という軸でいうと、そういうのもアリだと思います。

山本: そういった犯罪検出のようなものは、従来の言語を中心にしたAI活用では対応しづらかったものですね。画像を利用して「こういう空間だと物が売れる」というようなマーケティングがありますが、それに活用できそうです。

坂田: そうですね。映像とか明るさとか、そういった情報は文字になっているものから読み取るには限界があります。

山本: マーケティングAI自体がもっと成長することが、応用には大事だとわかりました。本日はありがとうございました。