東京大学(東大)は9月7日、マイクロ流体中の慣性力を利用することにより、細胞を形状ごとに自律的に分類するマイクロ流体デバイスの開発に成功したと発表した。

同成果は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のMing Li 博士研究員、Dino Di Carlo 教授(ImPACTチームリーダー)、東京大学大学院理学系研究科化学専攻の合田圭介 教授らによるもの。詳細は英国の学術誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。

マイクロ流路チップの写真(出所:東京大学Webサイト)

バイオ燃料生産への応用が期待されるミドリムシなどの藻類は、円形に近いものから円筒状に長細く伸びたものまで、さまざまな形を取ることが知られている。形状は細胞周期の状態や光合成能力、細胞周辺環境などの影響を受けることから、細胞形状そのものが、光合成や呼吸など代謝活動の要因、温度や光、pH、イオン濃度など外部環境要因などに作用される、生物学的に重要なバイオマーカーといえる。

また、均一な形状を持った細胞集団を分離できれば、細胞や細胞内の分子メカニズムについての理解向け上に役立てることが可能となる。さらに、藻類に工学的な手を加えて、オイルなどの物質生産に応用する研究においても、より均質な条件の細胞を用いて遺伝子改変などの操作を行うことで開発の効率や安定性が向上することが期待されている。しかし、従来のフィルター技術などでは、細胞をサイズや密度ごとに分離することは可能であったが、形状を指標にした分離技術は実現されていなかった。

今回の研究では、精密加工された流路に細胞を流すと、アスペクト比が高い(細胞の幅に対する長さの割合が大きい)細胞はアスペクト比が低い細胞と比較してより流路中央に近い位置を流れることを発見。この現象を利用して、流路の位置ごとに異なる流路に誘導する分岐流路を組み合わせることで、細胞をアスペクト比ごとに分離することが可能になったという。ここで開発したマイクロ流体チップは、直線上の流路および断面が徐々に広がった形状の流路および出口流路で構成されており、このチップを用いることで低アスペクト比のミドリムシは92.6%、高アスペクト比のミドリムシは82.4%の純度で分離された。

細胞アスペクト比1~7の7段階にミドリムシを分類し、各々の集団が細胞導入口および出口1~出口5におけるミドリムシ集団での分布を示したヒストグラム(出所:東京大学Webサイト)

なお、今回の成果について同研究グループは、ミドリムシなどの藻類を用いた生物学的研究や産業応用などに対して大きなインパクトを与えるものだと言及。また、ミドリムシにおけるアスペクト比などの形状は、生物学的に重要なバイオマーカーであるため、これを指標としてより均一な細胞集団を分離することができる同技術は、培養条件の制御や育種、遺伝子改変などの技術を組み合わせることで、オイル生産性が高い藻類の開発などに役立つことが期待されるとコメントしている。