AIを活用したシステムとしては、野村総合研究所(NRI)の「TRAINA」が採用された。以前からシステム構築などでつきあいがあり信頼があったという事情もあるが、それ以上に性能の部分が魅力だったという。

「特にテキストマイニングの性能が高いことが魅力でした。TRAINAはTRUE TELLER(テキストマイニングソリューション)をもとにしたテキストマイニングの性能が高く、表現の揺れや言い換えといったものをいちいち入力してやる必要がありません。どういう風に使いたいのか、運用の部分をしっかり定めてFAQのデータを読み込ませれば、すぐに使えるようになりました」と河本氏は語る。

実証実験にあたっては、従来の問い合わせ状況を分析して100件程度のFAQを作成し、システムに読み込ませた。そして、社内から人事・経理系にあたる10名の担当者を選び、新システムを実際に利用してもらう形で実験を行ったという。

「事前アンケートでは業務の20%が問い合わせ業務だという回答になりましたが、実験にあたったのは若手で、元々システム利用などが得意だったので、15%程度の負荷と設定して実験を行いました」(河本氏)

年末から4月という実験期間は、人事異動や年度替わりのタイミングであり、通常より多くの問い合わせが発生する時期だ。

「適切な回答の提案をサポートすることで、問い合わせ業務は45%効率化できるという結果が出ました。検索時間は3分45秒から30秒へと86.5%短縮されています。これは最低限の数値であり、今後のFAQ整備によってさらに短縮できると考えています。また、一部の申請業務も代替可能で、業務フローの圧縮にもつながるはずです」と河本氏は語る。

AIによる業務改善効果

対話形式で質問を整理、申請サポートで業務フロー圧縮も実現

実験では問い合わせを受ける側が回答を検索する形で利用した。今後は、秋の人事異動のタイミングでまずはサッポログループマネジメントが本番利用を開始し、さらに準備が整えばサッポロビールへ、その後にはポッカサッポロへと展開して行く予定があり、その時には直接AIを利用して問い合わせを行うことになる。

今後の展開計画

「TRAINA」を利用したシステムでは、対話式に質問に答える形で質問者の問い合わせ文から何を聞きたいのかを分析、適切な回答を提示する。回答は関連するFAQサイトへのリンクなどで行われ、必要であれば次の行動である申請もサポートする。これによって業務フローの圧縮ができるという仕組みだ。

「TRAINA」を利用したシステム

たとえば「マウスが壊れた」という問い合わせに対しては、「USBポートを変更しても改善されないか」、「違うPCに接続しても変わらないか」という質問でマウス本体の異常であることを確認させた上で、「新しいマウスを取得するための申請」を行わせる。申請書式には、開いた段階で問い合わせ者の氏名などをあらかじめ自動入力されており、入力する手間を軽減する。

マウス交換の申請の場合

「現在は氏名等の基礎情報のみですが、配送先の住所や部門名など、入力可能なものはすべて最初から自動入力し、利用者は微調整程度でボタンをクリックすればすぐに処理を終えられるような形にしたいですね。こうした申請書への紐付けなどはTRAINA単体ではできず、一部は開発が必要になっています。以前からシステム運用に携わっていただいているため、そこを安心して頼めるのもNRIにお願いして便利だった部分です」(河本氏)

IT関連だけでも月に2000件の問い合わせがあり、人事・総務関連のものまで含めると膨大な件数になるが、その6割ほどは電話で入ってくるという。電話分に関しては担当者が手入力するなど今のところ手間のかかる状態ではあるが、質問を蓄積することでFAQを整備、実験開始から2017年夏現在は500-600件程度のFAQが貯まっている状態だ。

「一時的に手間はかかっていますが、FAQがしっかりと蓄積でき、問い合わせに活用できるのでやりがいがあるという声が出ています。全体的にポジティブですね」(河本氏)

TRAINAでは利用後に、役に立ったかどうかなどをコメントも添えられるアンケートを実施しており、これをAIの自己学習によって精度を向上させている。実運用される頃には、さらに対応力が向上しているはずだ。