東京医科歯科大学は、同大難治疾患研究所分子神経科学分野の田中光一教授、杉山香織氏、相田知海准教授の研究グループが、九州大学、Zurich大学(スイス)との共同研究により、脊髄のグリア細胞の機能異常が筋萎縮性側索硬化症(AL)に似た進行性の筋力低下や脊髄運動ニューロンの脱落を引き起こすことをつきとめたことを発表した。この成果は8月16日、国際科学誌「Journal of Neuroscience」オンライン版に掲載された。

脊髄グリア細胞の機能障害はALに似た症状を引き起こす(出所:ニュースリリース)

脳・脊髄にある運動ニューロンが変性・脱落する難治疾患である「筋萎縮性側索硬化症(AL)」は、進行性の筋力低下を引き起こして死に至る。その発症機序は不明で、有効な治療法が存在しない。

ALの患者は、脳・脊髄のグリア細胞に存在するグルタミン酸輸送体(グリア型グルタミン酸輸送体)GL1の発現が減少することや、ALモデル動物ではグリア型グルタミン酸輸送体 GL1とGLAが共に減少することが報告されていることから、これらのグリア細胞の異常が運動ニューロンの変性・脱落に関与することが推定されている。

しかし、グリア型グルタミン酸輸送体の発現減少が運動ニューロンの変性・脱落の直接的な原因か、あるいは運動ニューロンの脱落に伴う二次的な現象なのかは不明であった。

そこで、研究グループは、グリア型グルタミン酸輸送体(GL1とGLA)を脊髄から欠損させたマウス(脊髄GL1/GLA欠損マウス)を作成し、脊髄運動ニューロンに変性・脱落を引き起こし得るかを検討した。

脊髄GL1/GLA欠損マウスは、進行性の下肢麻痺および運動ニューロンの脱落といったALに似た症状を見つけ、脊髄GL1/GLA欠損マウスの運動ニューロンではタンパク分解酵素のカルパインが過剰に活性化され、核ー細胞質間輸送に関わる核膜孔複合体の構成成分が分解され、核に形態異常が起こることを見いだした。

また、筋力低下と運動ニューロンの脱落は、グルタミン酸受容体阻害剤ペランパネルおよびカルパイン阻害剤NJ-1945の投与により改善された。さらに、脊髄のグリア細胞の機能不全が筋萎縮性側索硬化症(AL)に似た進行性の筋力低下と運動ニューロンの脱落を引き起こすことが明らかになったという。

これらの成果は、脊髄でのグリア型グルタミン酸輸送体の減少が、直接麻痺を引き起こす重篤な運動ニューロンの脱落を引き起こし得ることを示すとともに、ペランパネルおよびNJ-1945が脊髄運動ニューロンの変性・脱落を抑制する新しい治療薬候補であることを示唆している。

グリア型グルタミン酸輸送体の機能障害は、ALだけでなくアルツハイマー病や脳梗塞などでも報告されていることから、これら疾患の病態解明や新規治療法開発への応用が期待できると説明している。