インターステラテクノロジズ(IST)は7月30日、同日実施した観測ロケット「MOMO」初号機の打ち上げ実験に関する記者会見を開催、結果について報告した。機体に何らかの異常が発生し、ロケットとの通信が打ち上げの66秒後に途絶。到達した高度はおよそ20km弱と推定され、宇宙空間への到達は次回へ持ち越しとなった。
高度10kmで何が起きたのか
MOMO初号機の打ち上げ時刻は16時31分。当初、機体は順調に上昇し、通信が途絶えるまでは、飛行はすべて正常だった。既報の通り、筆者がいたプレスサイトからは、機体はまったく見えなかったのだが、特に燃焼音に異常は感じられず、正常に飛んでいったように感じられた。同社によれば、飛行経路は正常の範囲内だったそうだ。
しかし問題が起きたのは打ち上げの約66秒後。このときの高度は約10km、速度は約400m/s(マッハ1.3)、射点からの水平距離は約1kmだった(いずれも速報値)。突然、機体からのテレメトリが途絶えたため、すぐ地上からエンジンの緊急停止コマンドを送信、機体はそのまま高度20km近くまで上昇し、沖合6.5km付近の海上に落下したものとみられる。
テレメトリが途絶したことから考えると、緊急停止コマンドが届いていない可能性もあるが、機体には、地上との無線リンクが切れたときに自動停止する安全機能が搭載されている。また、たとえOBC(搭載コンピュータ)の電源が落ちたとしても、バルブが自動的に初期位置に戻るフェールセーフの仕組みも実装されている。
今回、レーダーによる追跡などは行っていないため、直接的に、エンジンが停止したかどうか確認する方法は無いものの、上記の理由から、緊急停止コマンドを送った時点では、すでに自動で飛行を中断していた可能性が高いという。機体を海上で発見できれば、その地点から間接的に推測できるが、回収に向かった監視船からは、現場の海域で浮遊物は何も見つからなかったとの報告を受けているそうだ。
さて、テレメトリが途絶した原因であるが、途絶後のデータが無いため、すぐに特定することは難しい。ただ、現在推定されているのは、機体が破損し、それによりケーブルが切断された、というシナリオだ。
その根拠となるのは、テレメトリが途絶した高度10km、速度マッハ1.3というタイミングだ。事前のシミュレーションにより、60秒台後半から70秒台後半がMOMO初号機の「Max Q」(動圧最大点)であると見られていた。Max Qとは、空力による機体への負荷が最も大きくなる点のこと。Max Qで機体が壊れたとすれば、66秒というタイミングとは合致する。
機体に搭載したカメラからの映像も、これを裏付けている。異常が発生する直前まで、機体は安定して飛行していた。しかし映像が途切れる直前、エンジンのジンバルが大きく振れていたのが確認できたという。
搭載カメラの映像(提供:インターステラテクノロジズ)。左側に写っているのは、アンテナを搭載した板
MOMO初号機は、エンジンの噴射方向をジンバルで調整することで、ピッチ軸とヨー軸の姿勢を制御する。機体の破損により、姿勢が大きく崩れたのであれば、それを直そうとしてジンバルも大きく動く、というわけだ。
なお映像を見ると、途中から発生したロール軸周りの回転が、徐々に速くなっているのが分かる。本来、ロール軸周りの回転は、機首側に搭載したガスジェットで制御できるはずなのだが、同社によれば、打ち上げ後15秒のタイミングで何らかの現象が発生し、ガスジェットで制御しきれないほどの外乱が発生していたそうだ。
このロール軸周りの回転と、今回の通信途絶との間に何か関係があるかどうかは不明。今後、同社は分析を進め、近日中に結果を公表したいとしている。
今回の実験は失敗? それとも成功?
記者会見に出席した同社の稲川貴大 代表取締役社長は、「今回の実験の目的は、ロケットを設計・製造して、飛行時の特性を得ることだった。目標の高度100kmには届かなかったが、データを取るという意味では、満足できる結果が得られた」と、MOMO初号機の打ち上げを総括した。
ロケットの開発においては、エンジンの開発が最大の難所であると言われる。その点に関して、今回の実験結果は、かなり良かった。詳細はまだ解析中だが、推力や比推力は、ほぼ想定通り。燃焼時間は予定の半分程度になってしまったものの、機体に問題が発生しなければ、予定した120秒間に達することができたかもしれない。
稲川社長は、「エンジンについては、フライトに十分使えるものができたと考えている」と評価。地上の燃焼試験がうまくいっても、それをロケットに乗せたとき、性能を再現できるとは限らない。だからこそ実際に打ち上げて確認する必要があるのだが、エンジンの性能が実証できたというのは、非常に大きな成果だと言える。
エンジン開発で大きな成果があった一方で、新たに出てきた課題が前述の通信途絶だ。現時点では、異常の原因として機体の破損が疑われているが、機体の強度などについては事前に解析を行い、Max Qでも耐えられるよう設計したはずだった。ただ、シミュレーションで100%検証できるわけではなく、最終的には、やはり実際に何度も飛ばしてみるしかない。
「実験」というものは、単純に「成功」「失敗」とは分けにくいものだ。今回の実験は、高度100kmが目標であったわけだが、100%成功すると分かっていれば、そもそも実験する必要は無い。実験を行うのは、想定通りにいくかどうか確認するためであり、稲川社長も会見で「想定外のことが起きることこそが実験の成果」と述べている。
実験に「失敗」があるとすれば、それは成果を次に活かせなかったときのことではないだろうか。論理的な考え方ではないかもしれないが、挑戦を続ける限り「失敗」ではないのだ。
実際のところ、世の中のロケットを見てみても、初号機でいきなり完璧に成功することの方が珍しい。しかも新開発のエンジンであればなおさらだ。運用を開始したあとでも、10号機あたりまでは比較的失敗する確率も高い。現在は世界最高レベルで安定しているH-IIAも、6号機で失敗している。ロケット開発は、それほど難しいことなのだ。
また、実際に打ち上げを行ったことで、運用という面でも大きな成果があったのではないだろうか。今回は延期が重なり、最後のウィンドウまで使い切ることになったが、天候の問題、機体のトラブル、地上側の要因(船舶の侵入)と、ロケットの打ち上げ延期でありがちな理由を一通り経験したのは今後に繋がるだろう。
特に2日目は、液体酸素の充填を3回も行うことになり、時間的にもギリギリだった。液体酸素の充填方法や、機体のメンテナンス性の改善が必要と痛感したそうで、次号期以降で対策する考えだ。
気になる再チャレンジの日程は
同社の今後の予定であるが、まずはMOMOの後継機として、2号機、3号機の開発を進めていく。打ち上げの時期は未定だが、同社の堀江貴文取締役は、「おそらく年内には打ち上がると思う」との見通しを示した。2号機では、今回見つかった不具合を改良するほか、ローコスト化も進めるという。
それと並行して、同社は人工衛星の打ち上げに使える2段式ロケットの開発も進める。今回の会見の場では、初めてモックアップが公開。まだ設計中のため、スペックは変更される可能性もあるが、1段目には推力4t程度のエンジンを9基ほど搭載するとのこと。2段目には、同型エンジンの真空板を搭載する。
小型のエンジンでも、たくさん束ねる(クラスタ化)ことで、大きな推力を出すことができる。大型エンジンを開発するより、小型エンジンをクラスタ化した方が、より早く、安く実用化することが可能。同型エンジンを多数製造するため、量産効果も期待できる。このような構成は、SpaceXのFalcon 9ロケットなども採用しており、一般的な手法だ。
ただ、「安い」とは言っても、開発には億円単位のコストが必要になるだろう。MOMOより開発費が膨れ上がることは確実なため、堀江氏は「新たな株式などによる資金調達を考えている」とのことだ。
衛星用ロケットでは、エンジンのクラスタ化のほか、多段化も必要になる。これまで、同社の観測ロケットはすべて1段式だったため、これも新開発の技術だ。ただ、多段化で必要になる分離機構については、MOMOシリーズでの先行開発を予定。2号機で実装されるかどうかは未定だが、今後、ペイロードを分離して回収することを計画しているそうだ。
民間開発の日本のロケットとして、初めて宇宙空間に到達する予定だったMOMO初号機。残念ながらその目標は達せられなかったものの、記者会見に出席した関係者の表情は明るく、大きな自信にもなったことを強く感じることができた。早くも2号機が楽しみになってきた。