プライベートとパブリックを選択利用できる今がベスト
富士ゼロックスでは、AWS導入当時からAWSのプログラムを利用した学習機会を設けるほか、クラウド事業者の担当者を呼び寄せて社内勉強会を開くなど教育面も重視してきた。強制ではなく自由参加でありながら、満席になるほどの盛況だという。最近はGCPが加わったことで、さらに学習熱が高まっているようだ。
「やればやるほど参加者が増える状態で、最近開催した時も1次募集はすぐに埋まってしまい、追加募集を行ってもなお立ち見が出たほどでした。GCPは分析に強いサービスなので、これまでとは違った分析をやってみたいという機運が高まっていますね」と、黒須氏はクラウド利用に対する意欲の高さを語る。
非常に盛り上がっているパブリッククラウド活用だが、富士ゼロックスとしては今後もプライベートクラウドはある程度維持して行く意向だ。
「パブリッククラウドはブラックボックスになる部分があるため、お客さまへの説明責任が果たしづらいというサービスオーナーがいます。そのため、今後さらにAWSやGCPの比率が高くなっていくでしょうが、プライベートクラウドもある程度は残るでしょう。希望によってエンジニアが気軽に使い分けができるハイブリッドな状態は、 われわれにとって、現時点ではベストです」と黒須氏は語る。
ユーザー視点を持ち、顧客に寄り添ってクラウドビジネスも展開
こうした自社での学習や運用の成果をサービス化し、販売も行っているのが富士ゼロックスの特徴だ。サービスの販売にあたって、熟知するために自社がユーザーになるというのはよくある手法だが、クラウドという変化の大きいものだけに効果も大きいようだ。
「自社でしっかりと使って安全感を出すのは、重要だと考えています。クラウドの変化を感じてお客様に伝えるのが役割です。一緒にビジネスを作りたいですね」と語るのは、インダストリービジネスソリューションサービス事業本部 オファリング統括 業務ソリューションオファリング推進部の鈴木達文氏だ。
同社は長らくサーバやオンプレミスのシステム販売を手がけてきたが、時代に合わせてクラウドサービスを扱うようになり、ビジネスも変化してきているという。最も大きな違いは、富士ゼロックスのエンジニアが活躍する時期と期間だ。
「オンプレミスのシステムなら、動かすまでが仕事です。きちんと動く形で納品できれば、あとは呼ばれた時に対応するだけ。しかしクラウドの場合、動くことは当たり前ですから、その先が仕事です。使い方を教えたり、一緒に考えたりと、導入後に活躍することになります。今はクラウド導入率の低い中小企業に向けて全国で動き始めた段階です。クラウドエンジニア1000人を目標に育成を進めています」と鈴木氏は語る。
黒須氏と鈴木氏の2人で全国の販社を回り、自社の導入・活用事例や販売方法のアドバイスなどを語る日々だという。取り組み体制は販社によって異なるが、中には非常に熱心な展開を行っているところもあるようだ。
「富士ゼロックスといえば、オフィスの複合機などでなじみのある会社です。毎月点検に来てくれるエンジニアはお客様からの信頼も厚いです。複合機のメンテナンス時にクラウドについて質問されることもあるようで、中にはそのままセールストークまでできてしまうエンジニアもいるほど。お客さまに入り込んで、さまざまなクラウドサービスを提案できるのは強みだと思っています」と鈴木氏は語る。
全国の販社からエンジニアが加わるコミュニティも構築し、情報交換や発信も盛んに行われているという。ユーザー側として導入・活用の経験があることと、すでにユーザー企業に密着し二人三脚で歩む体制ができていることの組み合わせによって、これまでクラウドに対して二の足を踏んでいた中小企業への導入を推し進める予定だ。
クラウド利用を加速するための環境整備とスキル・マインドセットを強化
今後、富士ゼロックスではさらなる環境整備と教育を行って行く意向だ。環境整備については、主にネットワークインフラを強化するという。
「クラウドを使うためのネットワークコネクションを改善したいと思っています。さまざまな拠点からのアクセスを快適にしたいですね。同時にセキュリティやアクセス権限についての見直しも行い、認証などの利便性を高めたいと思っています。制限がある部分を緩めて、より使いやすいものにしたいですね」と黒須氏。
クラウド活用が十分進んでいるからこその改善ポイントだが、さらに活用を進めるための教育も重要としている。「スキルセットやマインドセットは強化しなければなりません。クラウドファーストになってきていますが、さらにサービスをうまく使いこなしてほしいですね」と一歩進んだ活用に向けて動きだそうとしている。
ユーザーでありながら販売者であるという富士ゼロックスの動き方を、黒須氏と鈴木氏は「言行一致」と表現する。言行一致の体制で、今後も社内での利用と、中小企業を中心とする企業導入の支援の両面が強化されて行きそうだ。