近年、動画広告などのリッチメディア広告もプログラマティックを活用した出稿が可能になり、ブランドリフトを目的としたプロモーションでも徐々にデジタル広告が利用され始めています。今回はリッチメディアが盛り上がり始めた2012年からリッチメディア広告や動画広告、ネイティブ広告を展開する株式会社ヒトクセさんに、ブランディングにおけるデジタル広告活用方法をお聞きしてきました。
お話を伺ったのは・・・
株式会社ヒトクセ
代表取締役社長
宮崎 航さん
東京大学教養学部アジア地域研究専攻卒業。中国CapgeminiでITコンサルティング業務に従事。ヒトクセを設立し、代表取締役社長に就任。講演実績は、MarkeZine Day、東京大学工学部「アントレプレナーシップ」、Japan IT Week等。東京大学アントレプレナー道場メンター。
まずは株式会社ヒトクセについて教えてください
株式会社ヒトクセでは当初、スマートフォン向けWebサイトやアプリを簡単に作成できる無料の開発ツールを提供していたのですが、それをスケールさせ収益化していこうというタイミングで広告へ参入しました。収益化にあっては、様々な市場について調べました。2012年頃のことですが、当時リッチメディア・動画広告はまだ国内プレイヤーも少なく、海外のプレイヤーもまだ日本のニーズにあったサービス展開ができていない状態でした。「今なら勝負できる」と参入を決めました。当時動画広告も注目され始めたばかりで、その時期に参入できたことはタイミングが良かったなと思います。
その後、第三者配信事業者として、動画・リッチメディア広告プラットフォーム「Smart Canvas」、ダイナミックネイティブアド「カメレオン」、博報堂グループと協業で開発した環境連動型広告「FIT AD」、そして電通デジタルと協業し今年の4月にリリースしたダイナミッククリイティブ「バナーレボリューション」という主に4つのサービスを展開しています。多彩なクリエイティブで広告配信が可能な点と配信タイミングの最適化がヒトクセ最大の特徴です。
デジタル広告を活用したブランディングの課題は"指標"
ブランディング予算がデジタル広告に流れ始めているという実感はありますか?
あります。実際に、ヒトクセで扱っている広告の多くはTVCMにも出稿されている広告主様によるものです。以前から、そうした広告主様によるダイレクトレスポンス広告(※1)へのご出稿はありましたが、2~3年頃前からブランディングを目的とした出稿も増えてきています。実際、弊社の売上も昨対比約300%程で毎年伸び続けています。広告主の業種は幅広く、食品系や飲料系、映画系、PCやスマートフォンなど多岐にわたります。ブランドというと定義がとても曖昧ですが、私たちはいくつかのフェーズで醸造されていくものだと捉えています。まずは知ってもらう認知フェーズ、「●●と言えば××」というイメージを持ってもらう連想フェーズ、そして「××だから使いたい」というブランドロイヤルフェーズです。そうしたブランドを作るマーケティング施策に活用される広告を、ブランディング広告だと考えており、効果的なブランディング広告を開発していきたいと考えています。
※1 ユーザーのコンバージョンへの移行を目的とした広告のこと
デジタル広告を活用してのブランディングの課題は何ですか
ブランディング効果を測定する指標に課題を感じています。これまでのデジタル広告の指標、いわゆるCPA・CPCなどは、ブランドリフト(※2)効果を測るのに適していません。それらを追求したところで、ブランドリフトに繋がらないと考えています。例えばCPCを指標に置くと、クリック率を上げることを優先してしまいがちです。また認知させようとフリークエンシー(※3)を上げるためにリターゲティング広告でしつこく追いかけまわして印象を悪くしてしまっては逆効果です。ビールの広告を出して、飲食店やスーパー等での売上を上げたいとした場合に、そのための認知度向上やイメージ向上を行うにあたり、どんな数値を指標としていけば良いか、セオリーが定まっていません。オフラインのデータと連携することも可能ですが、実際の効果に結び付けて考えるにはデータ量が足りない事が多く、まだ実用的ではありません。
※2 商品やサービスの認知、好感度、購入意欲などが上昇すること。
※3 配信した広告に対して、一人のユーザーに平均して露出された回数。
ではどうやって指標を定めているのですか
現状では、広告主と話し合い、クリエイティブとセットで計測指標を設定しています。「ビールの売り上げ向上」という効果を得るために、まずは認知が必要なのでビューアブル率を追ってみましょう、興味喚起ができたかクリエイティブによる態度変容は広告の視聴時間やCTRを見て行きましょう、という提案を行います。
テレビCMだとGRP(※4)が指標として一般的に用いられており、デジタル広告でもGRPのような「どれくらい見られているのか」を計測できるようにとビューアブルインプレッション(※5)を指標にすることが増えてきました。またヒートマップを使ってクリエイティブのどの部分がクリックされているのかといった検証だったり、スマートフォン端末の傾きの変化を回転率として計測し、広告効果を検証していくというアプローチも行っています。
※4 Gross Rating Pointの略で、広告効果の測定に使われる指標。テレビコマーシャルを放映した本数にそれぞれの番組の視聴率を掛けた総和である総視聴率のこと。
※5 ユーザーの閲覧している画面内に表示露出されたインプレッションのことIABの規定によれば、ディスプレイ広告の場合、ピクセルの50%以上が1秒以上表示されること、動画広告の場合は、50%以上が2秒以上再生されること、とされている。
デジタル広告を活用したブランディング事例
事例360度動画を利用した高級車のブランディング
動画・リッチメディア広告プラットフォーム「Smart Canvas」のフォーマットの一つに360度全天周バナーというものがあります。ドラッグ、スワイプ、またはスマホを傾ける事でクリエイティブ内を360度見渡す事ができるフォーマットです。これを高級車の認知向上を目的としたキャンペーンに活用しました。
クリエイティブイメージと配信方法
・15秒の360度動画をDSPにて配信
・デバイススマートフォンのみ
配信結果
360度動画 | 静止画 | |
---|---|---|
90度回転率 | 35.9% | 24.8% |
180度回転率 | 24.8% | 17.7% |
270度回転率 | 16.2% | 11.7% |
360度回転率 | 10.1% | 7.7% |
配信結果の通り、静止画に比べて動画では5%~10%の回転率が高いという結果になりました。360度動画を用いることで、ユーザーの興味関心をより高め、広告を届けることができました。
Smart Canvasには360度全天周バナー以外にも様々なフォーマットがあり、スクラッチを削るような演出ができるフォーマットでクーポンを配布した事例もあります。また電通デジタルと共同開発しているバナーレボリューションでもユーザーの興味を惹くような多数のフォーマットがあり、ユーザーのサイト閲覧履歴や広告の配信環境に応じて動的にクリエイティブを生成することができます。
事例2:需要の高まりに関連するデータを活用した空気清浄器のブランディング
環境連動型広告「FIT AD」を活用した事例です。この「FIT AD」とは、ニュースキーワードや検索トレンド、気象情報や株価など、さまざまなオープンデータにより自動で出稿のタイミングを計ることができるサービスで、博報堂グループと共同開発しています。蚊取り機能を有する空気清浄器のブランディング機能訴求キャンペーンで、検索トレンドやWebニュースに「蚊/デング熱/ジカ熱」というワードが一定数を越えたタイミングで広告を配信しました。
クリエイティブイメージと配信方法
・バナーgif動画、静止画をDSPにて配信
・デバイスPC、スマートフォン
配信結果
検索トレンド・Webニュースのデータを用いて需要が高まるタイミングを計り、バナーを配信した結果、通常配信に比べCTRが200%上昇しました。ユーザーのニーズに対して、適切なタイミングで機能訴求をすることができた事例です。
「FIT AD」はあらゆるデータをAPIで取得し、システムを連携させています。この他にも気象情報を元に湿度が60%以下になったら女性に向けて乾燥肌対策化粧品の広告を配信したり、TVCMデータを元に競合がプロモーションを強化しているときに対抗して広告を打ったりといった事例があり、TrueView(※6)などにも対応しています。
※6 Googleが提供する動画広告フォーマット。YoutubeやGoogleの動画パートナーのサイトやアプリ上で、動画の前後や途中に表示される
ブランディング広告を配信するためにメディアができること
ブランディング広告の運用において、メディアの品質はどう評価していますか?
コンテンツのクオリティや、広告効果で評価しています。アドベリフィケーションの観点からホワイトリストやブラックリストを活用したり商材に合った媒体選定をしたりした上で、そこから効果が合う媒体に絞っていきます。なので、リーチがそこまで無くても、効果が良いメディアの品質は高く評価します。
効果と一言で言っても様々ですが、ビューアビリティという指標はメディアの評価においても重要視されるようになってきています。実際にヒトクセで計測している数値では、日本のDSP配信のビューアビリティ率の平均は35%です。グローバルでは50%程度という調査結果が出ており、できればグローバル平均程度あることが望ましいですね。80%を超えるメディアを選定して配信すると明らかに効果が良くなるので、ビューアビリティが高いメディアは高評価されています。
ブランディング広告を配信するために、メディアができることは何でしょうか?
二点あります。1つは動画広告やリッチメディア広告が配信可能な枠を作ったり、ビューアブルな枠を作ったりすることで、ブランディング用の広告枠を用意することです。メディアさんによっては、純広告でヒトクセのクリエイティブを導入し、代理店に販売しているところもあります。もう1つは、コンテンツのクオリティを上げ、ユーザーとのエンゲージメントを高めていくことだと思います。
ヒトクセとしては、広告主のメッセージを適切に届けられるようなプランニングやクリエイティブの追求と、ブランドリフト効果を計る指標を確立していくことに注力していきたいと考えています。双方で、協力してやっていけたら良いですね。
中小企業もブランディング広告を打てるように
最後に、今後の市場予測とアクションを教えてください
ブランディング広告に関しては、これまでTVCMを展開していた大企業様のデジタル広告への移行が注目されていますが、今後は中小企業もブランディング広告を打つケースも多くなるのではと予想しています。プログラマティック広告は低予算でのターゲティング配信が可能だからです。ヒトクセでは、そうした企業様にもマッチしたご提案をしていきたいと考えています。
また皆さんご存知の通り、広告市場は変化が激しく、今の技術が数年後には陳腐化して新しいサービスが出てきます。現在は広告主様へ向けたブランディング広告のソリューションを展開していますが、将来的にはレスポンス広告向けのソリューションやメディアへ向けたサービスなど、デジタルマーケティング全般のサービスを展開して行きたいと考えています。
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本稿は、fluct magazineに掲載された記事を転載したものです。