米宇宙企業スペースXは7月6日(日本時間)、通信衛星「インテルサット35e」を搭載した「ファルコン9」ロケットの打ち上げに成功した。インテルサット35eは大容量の通信が可能な次世代衛星で、ファルコン9にとって最も重い衛星の打ち上げにもなった。またファルコン9の打ち上げは今年10機目となり、さらにこの12日間で3機の打ち上げを成し遂げた。

インテルサット35eを搭載した「ファルコン9」ロケットの打ち上げ (C) SpaceX

上昇するファルコン9 (C) SpaceX

ファルコン9(Falcon 9)は日本時間7月6日8時38分(米東部夏時間7月5日19時38分)、フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターの第39A発射台から離昇した。ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約32分後に衛星を分離し、軌道に投入した。

インテルサットによると、その後衛星からの信号の受信にも成功し、衛星の状態が正常であることを確認したとしている。

ファルコン9の打ち上げは今年で10機目となり、6月26日以来、わずか10日ぶりの打ち上げでもあった。さらにその2日前の24日にも、今回と同じ発射台から打ち上げが行われており、12日間で3機の打ち上げに成功したことになる。

当初、今回の打ち上げは7月3日に予定されており、その場合9日間で3機の打ち上げとなるはずだった。しかし、離昇の約10秒前にコンピュータが異常を検知して自動で打ち上げを停止させ、延期。翌4日にも打ち上げが試みられたものの、ふたたび約10秒前にカウントダウンが自動で停止し、延期されていた。

打ち上げのWeb放送で解説を担当した、スペースXのJohn Insprucker氏によると、月曜日の延期の理由は、ロケットの第1段の電子機器が示したある値と、地上側があらかじめ想定していた値との間に誤差があり、それを異常と判断したコンピュータがカウントダウンを停止させたとしている。

インテルサット35eを搭載した「ファルコン9」ロケットの打ち上げ (C) SpaceX

上昇するファルコン9 (C) SpaceX

インテルサット35e

インテルサット35e(Intelsat 35e)は、米国の衛星通信会社インテルサットが運用する通信衛星で、同社の「エピック」と呼ばれる、ハイ・スループット機器を搭載した次世代通信衛星の4機目となる。大西洋上の静止軌道から、欧州や北米大陸に通信サービスを提供する。

衛星にはCバンドとKuバンドのトランスポンダーが搭載されており、そのうちCバンドは、従来に比べて通信容量を大きく増やすことができる「ハイ・スループット」機器となっている。

衛星の製造はボーイングが担当した。メイン・スラスターは日本のIHIエアロスペースが供給している。打ち上げ時の質量は6761kgと、民間の商業用静止衛星の中では最も重い部類に入る。設計寿命は15年が予定されている。

現在衛星は、近地点高度約293km、遠地点高度約4万2860km、軌道傾斜角25.84度の、スーパーシンクロナス・トランスファー軌道に入っている。このあと衛星側のスラスターを使い、大西洋上の西経34.5度の静止軌道に乗り移る。現在この軌道にはインテルサット903(2002年打ち上げ)が投入されているが、インテルサット35eが後を継ぐ形となり、インテルサット903は引退する。

なお、エピック・シリーズの1、2号機は2016年に、3号機も今年はじめに打ち上げられている。この3機は欧州の「アリアン5」を使って打ち上げられており、ファルコン9の使用はエピックにとって、また同社の衛星にとっても初めてだった。インテルサットは世界最大かつ、最も長い歴史をもつ衛星通信会社であり、今回の成功は、スペースXやファルコン9の評価や信頼性にとってもプラスとなった。ただ、現時点で他のインテルサットの衛星の打ち上げ受注には至っていない。

インテルサット35eの想像図 (C) Intelsat

ファルコン9史上最も重い衛星の打ち上げ - 次回の打ち上げは1カ月後

今回のファルコン9の打ち上げでは、積み荷のインテルサット35eが打ち上げ時質量が6761kgと、ファルコン9にとっても、また世界的にも最大級の質量をもつ衛星だったことから、恒例の第1段機体の着地、回収は実施されず、使い捨てでの打ち上げとなった。

ファルコン9が着陸場へ着陸、もしくは洋上の船に着地するためには、減速のためのエンジン噴射が必要になり、その分推進剤に余裕を残す必要がある。しかし今回のようにロケットの能力を限界まで使わなければならない重い衛星の打ち上げの場合は、その余裕が残らないため、使い捨て前提での打ち上げとなる。また着陸脚や安定翼などの装備も、そもそも着陸しないため役に立たないことや、少しでも機体を軽量化するため取り外される。

さらに、通常の打ち上げでは第2段の推進剤を少し残した状態で衛星を分離し、その後、第2段がなるべく早く大気圏に再突入するよう、逆噴射をして軌道を落とすという運用が行われるが、今回は第2段の推進剤がなくなる寸前まで噴射した後に衛星を分離するという、ロケットの能力を限界まで使った打ち上げでもあった。

その一方で、スペースXのイーロン・マスク(Elon Musk)氏は打ち上げ後、「当初、インテルサット側からは、遠地点高度は2万8000km以上であるようにとの要求があったものの、実際には4万3000kmの軌道に投入できた」と明らかにした。

これはおそらく、スペースXとインテルサットとの契約時には、旧型のファルコン9を使った打ち上げを想定しており、打ち上げ能力の都合から遠地点高度が2万8000kmの、いわゆる「サブ静止トランスファー軌道」にしか入れられないとされたものの、その後改良によってファルコン9の能力が向上したため、使い捨てであればスーパーシンクロナス・トランスファー軌道への投入が可能になった、ということだと考えられる。

ちなみにスペースXのWebサイトでは、現行のファルコン9の静止トランスファー軌道への打ち上げ能力は最大8300kgとなっている。

ファルコン9の打ち上げは今年で10機目となり、6月26日以来、わずか10日ぶりの打ち上げでもあった。さらにその2日前の24日にも、今回と同じ発射台から打ち上げが行われており、12日間で3機の打ち上げに成功したことになる。ファルコン9は2015年に打ち上げに失敗、2016年にも地上での試験中に爆発事故を起こすなどし、打ち上げが長らく止まっていた時期があり、打ち上げ予定が溜まっていたが、遅れを取り戻すべくハイペースでの打ち上げを続けている。

次回のファルコン9の打ち上げは、約1カ月後の8月11日に予定されている「ドラゴン」補給線運用12号機となる。1カ月の間隔が空く理由については、米空軍が管理する「イースタン・レンジ」(Eastern Range)と呼ばれる、フロリダ州のケープ・カナベラル空軍ステーションとケネディ宇宙センターを中心とした打ち上げ施設一帯が、改修工事に入るためと説明されている。そのためこの間、フロリダ州からはファルコン9以外のロケットも打ち上げも行われない。現在のところ、8月3日の「アトラスV」の打ち上げから、イースタン・レンジの使用が再開される予定となっている。

またスペースXは、この間を利用して、今年の夏中に打ち上げが予定されている超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」のために発射台を改修する工事を進めるともいわれている。

インテルサット35eを搭載した「ファルコン9」ロケットの打ち上げ (C) SpaceX

参考

Intelsat 35e Mission | SpaceX
Intelsat 35e Mission
Intelsat 35e Launches Successfully | Intelsat
SpaceX delivers for Intelsat on heavyweight Falcon 9 mission - Spaceflight Now
SpaceX Falcon 9 launches with Intelsat 35e at the third attempt | NASASpaceFlight.com