Lenovoは2014年にIBMのx86サーバ事業を買収した。それから2年以上が経過し、7月には2,000万台の出荷を達成できる見通しである。しかしながら、Lenovo全体の中でデータセンター事業の規模は小さく、売上高は全体の1割程度でしかない。DELL EMCやHPEとの差は依然として開いている。そんなデータセンター事業を同社はPC、モバイルに次ぐ第3のビジネスエンジンに成長させようとしている。同社は20日に米ニューヨークで「Tech World Transform」というアナリストや報道関係者、パートナーを集めたイベントを開催、周到に準備したデータセンター戦略の遂行に乗り出した。
キーノートに登壇したCEOのYang Yuanqing氏は「ITとは何か?」という問いかけからスピーチを始めた。ITが情報技術 (Information Technology)の略であったのは過去のこと、これからのITは「インテリジェント・テクノロジー(Intelligent Technology)であり、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、人工知能(AI)などによるインテリジェント・トランスフォーメーション (Intelligent Transformation)が起きようとしている」と述べた。
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Lenovo CEOのYang Yuanqing氏。ITが変化し、社会が変わり、それらに応えられるようにデータセンターが進化し、そうした未来を見据えてLenovoも変わる。「トランスフォーム」がカギのイベントになった |
スマートフォンの普及によるモバイルへの移行、そして「デバイス+クラウド」が人々の生活に革新的な変化をもたらしてまだ間もないが、一昔前には想像もできなかったような膨大な量のデータの処理が可能になって、この2~3年の間にデータ量の増加が加速し、AIが急速なペースで成長し始めた。インテリジェント・トランスフォーメーションによって、私達の暮らし、働き方、社会が大きく変わろうとしている。Yuanqing氏いわく「第4の産業革命」が進行している。
この以前とは全く異なるスピードで変化が進む状況は、独創的な発想を持ち、それを実践できる企業が老舗や大手を押しのけて市場やビジネスのルールを塗り替えられる……いわゆる破壊的な変化(ディスラプト)を起こせるチャンスである。見方を変えると、デジタルビジネス時代への対応に遅れた企業はまたたく間に取り残されてしまう。ITインフラを構築する今日のIT部門は、今起こっている変化の先を見据えてデータセンターやクラウド基盤を選ばなければならない。CIO Journalが行った調査によると、CIOの42%が「デジタル・ファーストが最優先」と回答した。ところが、その戦略を築けているのは50%に達していない。
だから、そうした変化への対応を支援できるベンダーが求められる。Lenovoは「インフラストラクチャー+クラウド」の時代を見据えて、まず自身のトランスフォーメーションに乗り出した。昨年同社は、Intelで24年間を過ごして様々なプロジェクトを率いてきたKirk Skaugen氏をデータセンターグループ担当のエグゼクティブバイスプレジデントとして迎え入れた。そしてデータセンター事業のためのセールスチームを組織し、サプライチェーンを整備。ハイパスケールインフラストラクチャやソフトウエアデファインド・インフラストラクチャ、ハイパフォーマンスコンピューティングなど、これからのデータセンター戦略のポイントになるプロジェクトを支える人材を確保してチームを整えた。
そうした組織作りを経て、今回のTransformイベントで、新しい14のサーバ製品、7つのストレージ製品、5つのネットワークスイッチから成るデータセンター向けのエンドツーエンドのポートフォリオを発表した。将来を見据えた技術への対応、必要性に応じたカスタマイズやアップグレードが容易で管理しやすいモジュラーデザインの採用など、モダンで"future-proof"なプラットフォームになっている。そしてサーバ、ストレージ、ネットワークスイッチの全てを「ThinkSystem」という1つのブランド名で揃えた。
新しいデータセンターグループには、PC市場を勝ち抜いてきたLenovoの強みや経験が活かされている。同社の社員数は52,000人、世界160カ国以上にカスタマーサービスを展開している。データセンターに関しては、7つのリサーチセンターを持ち、5つの製造施設がある。深圳の工場では必要な部品を速やかに調達でき、製造ラインのフロアに運び込まれた部品がThinkPadやサーバなどに振り分けられる。Lenovoの製造能力は、デバイスが4台/秒、サーバは1時間に100台以上。SKUの90%を7日とかからずに出荷できるそうだ。大手メーカーの信頼性とサポート、充実した知的財産、ホワイトボックスのソリューションプロバイダーとも競争できるスピードと柔軟性、中国系メーカーの価格競争力を兼ね備える。
さらにSkaugen氏は「Lenovoはコスト削減だけを通じてPC市場でナンバー1になったのではない。Ultrabook、2-in-1、タブレット、そしてMoto Modsなど思い出していただくと分かるようにイノベーションを起こす力が成功の核にある」と指摘した。その開発力は今日のデータセンター関連製品の開発にも活かされている。たとえば、ITICのx86サーバーの安定性に関する調査において、LenovoのSustem xは予定外のダウンタイムが1%未満という高可用性を記録した。x86サーバーのパフォーマンスベンチマークで、Lenovoは30の世界記録を保持している。それでもLenovoの製品がワークロードの様々なニーズに応えられるか不安に思う人たちに向けて、パートナーとして安定性とパフォーマンスを知るSAPが社内のHANAインメモリ・データベースにLenovoのハードウエアを採用していることをSkaugen氏は明かした。さらに、スーパーコンピュータで数年の内にトップを獲るという大きな目標も示した。
そうしたハードウエアの基盤に加えて、Lenovoは「ThinkAgile」というソフトウエアデファインド・インフラストラクチャのためのブランドを用意した。Skaugen氏は、今日のデータセンター分野におけるLenovoの強みの1つとして「レガシーフリー」を挙げた。この場合のレガシーはレガシービジネスを指す。IBMのSystem xを引き続いたとはいえ、データセンター市場においてLenovoは新参である。言い換えると、歴史的なルーター事業があるとか、大きなSAN事業を抱えるというようなしがらみがない。顧客のニーズに対して、シンプルにソリューションを提案し、そして速やかに対応できる。
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レガシーフリー、White-glove (綿密な)サービスが強み。ソフトウエアがカギであり、IPに投資する一方で、パートナーとの無益な競争を避け協調できるようにパートナーシップや合弁、M&Aなど様々なオプションでギャップを埋める |
Transformイベントのキーノートは、Lenovoの攻めの姿勢が鮮明になる内容だった。イベントのMCを務めていたRoderick Lappin氏 (グローバルセールス&マーケティング担当SVP)が最後に「われわれはデータセンター分野において、今もっとも大きなスタートアップの1つであり、ディスラプト(既存の仕組みを破壊)を起こそうとしている」と述べていた。目の前の顧客に向き合い、失敗を恐れずにリスクを取り、継続的に学ぶのがLenovoのDNAだという。「フェイル・ファスト(Fail fast)」を原則に挑み、つまづいても失敗から学び、継続的に改善しながら大きな目標に近づいていく。それが「第4の産業革命」という大きな変化につながるのか、それはまだ分からない。だが、Lenovoのような大企業がスタートアップの精神で挑むインパクトを否定することはできない。