横浜市は6月20日、パシフィコ横浜において「I・TOP横浜」のキックオフイベントを開催した。同イベントでは横浜市経済局長の林琢己氏がI・TOP横浜の概要について説明したほか、日本マイクロソフトや日産自動車、ディー・エヌ・エー(DeNA)、NTTドコモ、ミサワホーム総合研究所、KDDIなどがテーマ別に講演を行った。
IoTを活用して横浜市が目指す姿とは?
冒頭、林氏は「これまで横浜市では、よこはまライフイノベーションプラットフォームとして『LIP.横浜』を展開しており、医療や創薬、健康などの分野を中心にライフサイエンスに関連するプラットフォームを整備し、現在では150人、44社が参加している。この取り組みは、理化学研究所の横浜事務所や横浜市立大学の先端医科学研究センターを核に、さまざまな企業との連携により、革新的なプロジェクトを生み出すことを目指している」と述べた。
そして「I・TOP横浜は、IoTオープンイノベーションズ・パートナーとして、LIP.横浜と同様にITや製造業などの企業に加え、大学とコラボレーションに取り組むほか、中小企業の人材育成やセキュリティ対策にも注力する」と、同氏は意気込みを語る。
一方で、同氏は「昨年、横浜市内の企業1000社に対してIoTに関連する技術・サービスの導入について実態調査を行ったところ、業務や製品サービスにIoTを『活用している』と回答した企業は14%、『予定がある』企業は7.5%、『関心はある』企業は54.2%となり、現在のところ、企業はIoTの活用に踏み込めていないのが実情だ。あわせて、IoT導入に当たっての課題を聞いたところ、『人材確保』が65.2%、『ノウハウを得ること』が64.3%、『セキュリティの確保』が56.5%となり、中小企業を中心に障壁が高くなっている」と指摘した。
そのような状況を踏まえ、同氏は「I・TOP横浜のプラットフォームを活用し、セミナーや人材育成を進めていく。横浜市には製造業6000社、IT企業3000社が集まっていることに加え、欧州などの認証機関8カ所や大学が立地しており、373万人を抱える多様性のある地域で社会実験が可能だ」と、胸を張る。
横浜市では具体的な取り組みとして、「個別プロジェクトの推進による新規ビジネスの創出や社会課題の解決」「データサイエンティストなどの人材育成」「普及に向けたセキュリティ課題解決」の3点を挙げている。
同氏はI・TOP横浜への参画のメリットに関して、「交流・連携として参加企業や大学、金融機関、そのほか団体向けに個別のマッチング調整を実施し、事業提案会を年3回程度開催することに加え、企業そのほか団体のオープニングイベントへの参加を呼びかけ、場所の調整などを支援する。また、個別プロジェクトでは協業企業の紹介実証フィールドを提供し、プロジェクトが具体化した段階で記者発表をはじめとした情報発信を行う。さらに、生産性向上・人材育成・セキュリティ対策については、生産性向上に関するコンサルティングをIDEC(横浜企業経営支援財団)で実施し、経済産業省のセキュリティ標準化団体に加入することで中小企業の意見を伝えるなど、将来的には横浜市からIoT認証基準を発信していきたいと考えている。人材育成は、大学などと連携して人材育成講座を開講する」と力を込める。
これらの施策により、横浜市が何を目指すのか。林氏は、この点について「社会課題解決への貢献、中小企業のチャレンジ支援、新たなビジネスモデルの創出を目指す。社会課題解決への貢献では、生産年齢人口の減少と高齢者人口の増加を見据えて、持続・成長可能な社会を実現する。中小企業のチャレンジ支援に関しては、CeBITやハノーバーメッセに中小企業と視察し、それらの企業を中心に『IoTスタートアップ研究会』を立ち上げた。また、横浜市とIDECの連携により、IoT導入パックなど低コスト製品の紹介などを行う。新たなビジネスモデルの創出については、すでにDeNAとは自動運転の実証を行っているほか、ドローンビジネス活用プロジェクト、商店街でIoTを活用した行動分析などを実施している」と説明した。
経済産業省と慶応大学が後押し
横浜市の取り組みに対し、経済産業省と神奈川県藤沢市に湘南藤沢キャンパスを構える慶応大学も期待をかけている。経済産業省は超スマート社会を目指す「Society 5.0」の実現に向けて、さまざまなデータをつなげ、有効活用することで技術革新や生産性向上、技術伝承などを通じ課題解決を行う「Connected Industries」を進めている。
具体的には、データ流通・利活用の環境整備やIoTビジネスの面的展開、新たな競争領域の担い手、サイバーセキュリティ対策、IT人材育成の強化などを推進。横浜市に対しては、理想的な環境を備え、地域発のIoTビジネスモデルを創出し、IoTビジネスの社会実装が可能なほか、データ流通・利活用のための環境整備により、同市が他地域を牽引していくことを期待しているという。
また、慶応大学はデータサイエンスやヒューマンセンタード・デザイン、建築学、地理情報科学、マルチメディアデータベース、通信科学、デジタルファブリケーション、情報デザイン、分散システム、地方創生など各分野の教授が関わり、人材育成に努めていく考えだ。その一環として、横浜市内企業を対象としたデータビジネス人材育成プログラムを同市と検討しており、データビジネスに関する合宿形式のワークショップなどを行う方針としている。
横浜市がこのような取り組みを進めていくのは意義深いものの、市内企業の大半を占める中小企業によるIoT活用への理解と、活用に伴う人材育成をはじめとした同市の支援が今後の鍵となりそうだ。