スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)は、試作したペロブスカイト太陽電池を1年以上連続で動作させ、性能が低下しないことを確認できたと発表した。ペロブスカイト太陽電池は、近年の研究で変換効率が飛躍的に向上しているが、安定性に問題があり劣化が早いことが実用化の上で壁になっている。研究成果は、科学誌「Nature Communications」に掲載された。
ハロゲン化鉛系の化合物を用いたペロブスカイト太陽電池は、変換効率22%を超えるものが報告されるようになってきており、シリコン太陽電池に並ぶ性能を低コストで実現できる次世代の太陽電池として期待されている。しかし現状では、実環境で使用を続けた場合に空気中の酸素や湿度などの影響で急速な性能低下がみられると指摘されており、実用化を進める上で長期安定性の確保が課題となっている。
研究チームは今回、二次元系と三次元系の2種類のペロブスカイト材料を組み合わせた2D/3Dハイブリッド太陽電池を試作し、その長期安定性を検証した。試作したセルを並べて10cm×10cmサイズのモジュールを作製し、1万時間以上連続で使用したところ、性能に低下がみられないことを確認できたという。このモジュールの変換効率は11.2%だった。
二次元系ペロブスカイト材料は、同種の三次元系材料と比較すると安定性や耐水分性などの面で優れているとして、近年注目されるようになっている。とはいっても、2016年に報告された二次元系ペロブスカイト太陽電池(変換効率12%)の場合でも、実環境下での2250時間の動作で性能が30%低下したとされており、実用レベルの長期安定性は実現できていない。
今回試作した2D/3Dハイブリッド太陽電池では、二次元系材料と三次元系材料の接合界面を形成することによって、二次元系ペロブスカイトの安定性を強化すると同時に、三次元系ペロブスカイトの長所である吸収波長域の広さや優れた電荷輸送性能をあわせもたせることを狙ったという。
太陽電池セルは、二次元系と三次元系のペロブスカイト材料を混合溶液の状態にして、スピンコートや印刷法などを用いて基板に塗布することによって作製した。モジュール化する前のセル変換効率は、炭素ベースのデバイス構造を用いたもので12.9%、標準的な微細多孔質(メソポーラス)構造のもので14.6%であったと報告されている。
第一原理計算によるシミュレーションなどを用いた分析からは、2D/3D界面での相互作用によって界面領域での三次元系ペロブスカイトのバンドギャップが拡大していることが示唆されている。また、二次元系の伝導帯のエネルギーが三次元系の伝導帯よりも低いことから、2D薄膜層が電子輸送層(酸化チタン)への電子注入の障壁とはならず、むしろ電子の再結合を防ぐ働きをしていることも示唆されている。
研究チームは、今回の成果について、ペロブスカイト太陽電池セルの安定性の問題を解決し、技術を商用段階に移行させるブレークスルーになると強調している。なお、今回の研究には、色素増感太陽電池の発明者として知られるマイケル・グレッツェル(Michael Graetzel)教授も参加している。