今回はアドブロックについて解説して行きます。2017年6月1日、Googleは自らも参加するThe Coalition for Better Ads(※1)によって制定されたBetter Ads Standards(より良い広告基準)に準拠していないサイトに対し、Chrome上での広告掲載を停止すると発表しました。予てから噂されていたChromeへのアドブロック機能の導入が遂に正式発表されたのです。広告事業者であるGoogleが自らアドブロック機能を提供することに疑問を感じる人も少なくないと思いますが、Googleは今回の発表でこれをオンライン広告をより良いものにするための取組みだとしています。この背景にあるのは、近年の広告業界全体の懸念の対象となっていたアドブロックツールの普及です。
※1:米Googleや米ネット広告業界団体Interactive Advertising Bureau(IAB)など、オンライン広告に関わる16の企業や事業者団体により設立
モバイルデバイスへの導入数が急増中
アドブロックツールとはその名の通りWebサイトやスマートフォンアプリ上で広告が表示されないように広告をブロックする機能を持ったツールです。アドブロックソリューションを提供するPageFairとソフトウェア企業Adobeの調査によると、アドブロックによって失われた2015年の広告収入は218億ドル(約2兆2321億円)に上るとされています。またロイター通信のレポートによると、2016年12月のアドブロック利用率は日本が最下位で10%、米国で24%、一番普及が進んでいる国はポルトガルで、38%ですが、対象を35歳以下にしぼった調査ではポーランドが1位で、その割合は実に56%に上ります。海外を中心にここ数年で一気に普及が進んでいるアドブロックツールですが、日本でも2016年末頃からAppStoreでアドブロックツールが常に1位をキープするなど、徐々に利用者の増加が伺えます。
アドブロックツールを導入しているデバイスの数は2016年12月までに6億1,500万台に達し、特にモバイルデバイスでの導入数の伸びは急速で、2015年にPCを抜き3億8千万台に達しました。
アドブロックツールの発展
「広告ブロック」「Adblock」というワードを持つサイトがGoogleにインデックスされはじめたのは、米国では2001年頃、日本では2002年頃で、インターネット広告黎明期の頃からその概念はありました。もともと、ブラウザクラッシャー(ブラクラ)対策のためにブラウザでポップアップブロック設定をしたり、対策ソフトをインストールしていたという背景があり、そのソフトに後々広告ブロック機能が付け加わって行ったという経緯もあるようです。
ここ数年はブラウザのプラグインやスマートフォンアプリを利用して広告を非表示にするという手法が主流になってきています。2015年にリリースされたiOS9から、Safariの拡張機能に広告を非表示にすることができる「コンテンツブロッカー」が搭載されたことで、ストア上のアドブロックアプリ数は一気に増加しました。こうしたツールは有料・無料ともに無数にあり、国産のツールも増えてきています。広告を非表示にする仕組みは各種ツールで少しずつ異なりますが、代表的なアドブロックツールで独EyeOが提供する Adblock Plusの場合は、ウェブページ内の広告表示のための記述や広告配信サーバーのドメイン名などが書かれている「フィルタ」と呼ばれるブロック用設定データをもとに広告を排除しています。ユーザーはAdblock Plusをインストールし、有効にするだけでWebサイトから広告を消すことができますが、広告を消したくないサイトはホワイトリスト登録をしておくことができます。
また逆に、アドブロックツールを利用しているブラウザを検知し、広告を配信するパブリッシャー向けアドブロック対策ツールも開発されています。主なプレイヤーに、SOURCEPOINTやAdmiral、SECRET MEDIA、reviveadsなどがあります。しかし広告表示を拒否するユーザーに対し強制的に広告を見せるこうした方法論には賛否が分かれています。
海外パブリッシャーの対応
こうしたアドブロックツールの普及が進むことで、広告費の損失は2020年には350億ドルに上るとも言われています。この流れに対し、海外の大手パブリッシャーはアドブロック利用ユーザーに対しコンテンツを見せなかったり、ホワイトリストへの登録を促したり、若しくは広告のない(または少ない)のバージョンへの登録を勧めたりといった対応を取っています。各パブリッシャーの対応をまとめてみました。
Adblock Plusによる広告プラットフォーム
世界各国に利用者の多いAdblock Plusを提供する独EyeOは、「Acceptable Ads(受け入れ可能な広告)」というものを定義(※1)しています。そしてそれらをAdBlock Plusにおいてホワイトリスト化し、ブロックしないというサービスを2011年から提供してきました。このホワイトリストへの登録はEyeOへの料金が発生するという仕組みです。そして2016年9月には、ComboTagという企業と提携してAdblock Plusユーザーに対しAcceptable Adsを配信する広告プラットフォーム「Acceptable Ads Platform」のβ版を立ち上げました。この発表は、広告業界を騒然とさせました。過去にアドブロック機能が収益を妨害する反競争的存在であるとしてパブリッシャーから訴訟まで起こされていたEyeOが、今度は広告配信をするという展開を見せたからです。パートナー企業だと指名されたGoogleとAppNexusは、このプログラムへは参加しないという意向を表明し、また多くのパブリッシャーやブランドマーケターは痛烈な批判を浴びせています。
EyeOは少額決済システムを手がけるFlattr(2017年4月にEyeOが買収)と共に、AdblockPlusで広告ブロックしたサイトに対してユーザーがお金を寄付することができる「Flattr Plus」というツールも開発しており、パブリッシャーの参加を呼び掛けています。EyeOの共同創業者Till Faidaは「広告事業者がこのような消費者フレンドリーな何かしらの対策をすることを何年も待っていたが、待ちくたびれて、自らやることに決めた。」とコメントしています。
※1:Acceptable Adsによると、ユーザーのコンテンツ閲覧を妨害しない配置がなされている広告、広告として認識可能で、他のすべてのコンテンツとは区別できるようになっている広告、画面を占有しない適正なサイズになっている広告と定義されている。
各プラットフォーマーの対応
GoogleによるChromeへの広告ブロック機能の追加
冒頭にも記したとおり、Googleは、Chromeウェブブラウザのモバイル版とデスクトップ版共にアドブロック機能を導入すると発表しました。オンライン広告の改善を目的とした業界団体「The Coalition for Better Ads」が規定した「Better Ads Standards(より良い広告基準)」に準拠しない広告を掲載しているサイトの広告がブロックの対象となります。The Coalition for Better Adsのサイトでは、この基準に準拠しない広告として、ポップアップ、音声付きの自動再生ビデオ広告、カウントダウンタイマーを備えた「プレスティシャル」広告などモバイル広告で8種類、デスクトップ広告で4種類が紹介されています。
プライバシーへの取組みを強化するApple
AppleはiOS10でもコンテンツブロッカーを継続していますが、その機能についてはiOS9から特に変わっていません。Appleも同様にその狙いについては様々な憶測が飛び交っていますが、2016年6月にiAd(iOS端末向けのモバイル広告プラットフォーム事業)を撤退しており、広告事業へ活用していくという可能性は低いものとなりました。AppleはWWDCでプライバシーに関する取り組みをさらに強化すると発表しており、そうした文脈から、ユーザーの行動データも含めてまずユーザー自身がコントロールできるようにコンテンツブロッカーを実装したのでは、との見方もあります。
ユーザーの広告体験を向上させる新たな取り組みも
世界のインターネット広告費をGoogleと二分するfacebookは、デスクトップ版ウェブブラウザ上のサービスで、広告を非表示にするアドブロックをバイパスしてユーザーに広告を表示すると発表しました。また同時に、広告コントロールを改善させ、ユーザーが自分の興味を広告表示設定に反映させることが出来るようにしています。これに近しい取組みとして、Rubicon Projectの「Project Awesome」やInmobiの「Miip」があります。ユーザーはそれらのツールで広告の好みを設定することで、より自身にとって有益な広告を表示させることができるというものです。プラットフォーマーはそれぞれの思惑を持ちながらも、デジタル広告市場を持続させるために、ユーザーの広告体験を向上させていくことに目を向け始めています。
fluctコンサルタントインタビュー
アドブロックツールが普及していく中で、パブリッシャーはどういった対応を取れば良いのでしょうか。fluctコンサルタントにインタビューを行いました。
アドブロックに対し、何か対策をしているパブリッシャーはいますか?
日本ではほとんどいないです。みなさん気にされてはいるようですが、具体的に対策されているという話はまだ聞きませんね。
Google Chromeへのアドブロック機能追加が発表されましたが、それによりパブリッシャーはどんな対策が必要ですか?
まずはユーザー体験を損なっている広告実装はどのようなものかを改めて認識するところから始める必要があるかと思います。掲載している広告が「Better Ads Standards」に違反しているかどうかをチェックできるパブリッシャー向けのツールが既にGoogleから提供されているので、活用してみてはいかがでしょうか。その結果によっては、広告の掲載方法や掲載位置の見直しを検討する必要があるメディアさんもいらっしゃるかと思います。その場合はGoogleの示している優れた広告エクスペリエンスなどを参考にしても良いかもしれません。
また広告掲載方法の改善という視点だけでなく、ユーザーに支持されるコンテンツを充実させる事で、ユーザー数自体を増やしたり、特徴のあるユーザーを集めて、広告枠の価値を上げるという考え方もあるかと思います。アドブロックについては非常に難しい課題である事は認識していますが、fluctとしては各メディアさんの置かれてる状況に応じて、サポートが出来ればという思いでいます。
アドブロックツールは日本でも脅威になると思いますか?
今のところ、そこまで深刻には捉えていません。というのも、現在アドブロックツールを活用している数パーセントのユーザーは、そもそも広告をクリックしないと想定しているからです。そうしたユーザーに広告が配信されなくても、売上への影響はほとんど無いと考えています。海外のようにアドブロックツールユーザーの割合が大きくなれば影響が出てくるかもしれませんが、日本のインターネット市場構造は海外とは異なるので、海外の風潮がそのまま日本に入ってくるとは考えにくいです。今は各プラットフォーマーの動きを追いつつ、対策が必要になりそうであればメディアさんと対話しながら一緒に進めていきたいと考えています。
ユーザーの広告忌避を緩和するためには
アドブロックツールは進化し、新たなプレイヤーが現れ、今や広告業界全体が無視できない課題となっています。アドブロックの根源にあるのは、ユーザーによる広告忌避です。「読みたいコンテンツの邪魔をされる」「見たくもない動画を見せられる」といったストレスを解消したいというニーズから生まれた一つのソリューションがアドブロックなのです。
世界最大のメディアエージェンシーGroupMの会長John Montgomery氏は、アドブロックツールユーザーに強制的に広告を配信するアドブロック対策を「不透明な手段」だとして否定しました。パブリッシャーに対し、こうした施策を導入しないよう強く要請しています。強制的な広告配信は対処療法だとし、「まずはユーザー体験を改善し、つぎに消費者と向き合ってその改善を伝え、その後ホワイトリストへの追加やアドブロックの停止を検討してもらうのが筋だ」と述べています。
幸い、日本では海外ほどアドブロックは普及していません。しかし、年々広告忌避の傾向がみられるようになってきています。メディアビジネスを継続可能なものにするために、いかにユーザーストレスを少なくしていけるのかを真剣に考えていくことが重要なのではないでしょうか。ユーザーの広告忌避を理解し、ユーザー体験を改善させることで、アドブロックの普及を緩和することが出来るかもしれません。
(6月6日追記)
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本稿は、fluct magazineに掲載された記事を転載したものです。