早稲田大学は、同大学理工学術院の新井大祐次席研究員、中尾洋一教授、理化学研究所(理研)環境資源科学研究センターケミカルゲノミクス研究グループの髙瀬翔平研修生、吉田稔グループディレクター、松本健専任研究員らの共同研究グループが、薬の元となる化合物の作用メカニズムの同定に利用される「shRNAライブラリースクリーニング」を効率化し、この手法を用いてアポトーシスを誘導する海洋天然物オーリライドBの作用メカニズムに関わる新たな遺伝子を同定したことを発表した。この成果は5月17日、英国のオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載された。

shRNAライブラリースクリーニングの概要図(出所:早稲田大学Webサイト)

培養細胞にshRNAを導入すると、特定の遺伝子をノックダウン(タンパク質の合成を抑制)することができる。培養細胞群にshRNAライブラリーを導入することで、さまざまな遺伝子をノックダウンさせた培養細胞群を作成できる。このshRNAライブラリーを導入した培養細胞群に対して化合物処理を行うことで、化合物の作用メカニズムに関わる遺伝子を網羅的に調べること(スクリーニング)ができる。

これにより、化合物の直接の標的分子の同定だけでなく、化合物への感受性に関わる遺伝子群を同定することもできる。しかし、これまで細胞でのスクリーニング後のshRNA同定の段階で、サンプルごとに次世代シークエンサーによる解析を行っており、処理効率が低くコストが高いという課題があった。

今回、研究グループは、ゲノムワイドなshRNAライブラリースクリーニングにおいて、次世代シークエンサーで一度に複数のサンプルを解析できる方法を確立し、再現性や定量性について確認した。これにより、処理効率の向上と大幅な低コスト化が実現された。

次に、この方法を用いてアポトーシスを誘導する海洋天然物のオーリライドBの作用メカニズムに関わる遺伝子の同定を行った結果、オーリライドBへの感受性に関わる遺伝子としてATP1A1遺伝子を同定した。また、ATP1A1タンパク質の阻害剤である強心配糖体のウアバインをオーリライドBと共に細胞に作用させたところ、単独の場合よりも低濃度でオーリライドBが細胞増殖抑制を引き起こすことが分かったということだ。

今回開発された手法により、shRNAライブラリースクリーニングの処理効率を上げることができるため、ヒト培養細胞を使って遺伝学的に化合物の標的経路や合成致死経路の同定が進むことが期待できるという。化合物の標的同定以外にも、がん細胞の脆弱性の要因の同定や、疾患モデル細胞のプロファイリングを通じた、新たな治療標的分子の同定など、幅広く応用可能な技術だという。

今後、どのようながん細胞に対する細胞増殖抑制効果が強いのかなどを明らかにすることによって、新たな治療戦略につながる可能性があると説明している。