2.5GHz帯の有用性アピールは米携帯市場再編に必須

前者に関しては、徹底したコストカットやネットワークの改善などによって、業績回復の道筋が見えてきている。だが一方で、スプリントが業績回復に時間を費やす間、ベライゾンやAT&Tなど他のキャリアはコンテンツ企業への投資を進めるなどして、将来の事業拡大に向けた布石を打ってきている。それだけに、スプリントの事業の将来性については、現在もなお疑問符が付けられている状況なのだ。

そこでスプリントが将来にわたって高い価値を持つ企業であることをアピールするためにも、クアルコムの提携による5Gへの取り組みを打ち出し、スプリントの貴重な財産でもある2.5GHz帯を活用した“進化”をアピールする必要があった。それがソフトバンクグループの本音といえるのではないだろうか。

実際孫氏は先の決算会見において、クアルコムとの提携以外にも、スプリントが持つ2.5GHz帯の有効活用を強く打ち出す様子が見られた。それはユーザーが利用する端末の電波出力を上げることで、電波環境を改善する「HPUE」(High Power User Equipment)という技術を、2.5GHz帯に導入したことである。

スプリントは端末の電波出力を上げ、電波環境を改善する「HPUE」を、2.5GHz帯に導入したことも明らかにしている

HPUEはTD-LTE方式を推進するGTI(Global TD-LTE Initiative)によって標準化がなされているもので、GTIに参加しているソフトバンクグループが、HPUEの標準化にとても力を入れてきた経緯がある。孫氏はHPUEを導入することで、2.5GHz帯のエリアカバーが、より低い帯域である1.9GHz帯の99%に達すると話していることから、HPUEの導入によって2.5GHz帯の価値を高め、それを多く保有するスプリントの企業価値高めたい狙いが、ソフトバンクグループにはあるといえよう。

もちろん、2.5GHz帯が魅力的であることを知らしめるためには、アピールだけでなく実績が求められる。スプリント、ひいてはソフトバンクグループには今後、2.5GHz帯の活用がネットワーク改善に大きく貢献するかという実績作りが必要になってくるだろう。もしそれができなければ、目指す米携帯電話市場の再編にも疑問符が付けられることになるかもしれない。