なぜ共同開発は米国事業に限られているのか

だがよくよく考えてみると、2.5GHz帯はスプリントだけでなく、やはりソフトバンクグループ傘下で、国内で通信事業を展開しているWireless City Planningが保有しており、同社はこの帯域を使ってTD-LTE互換のAXGP方式によるサービスを提供している。そしてソフトバンクはWireless City Planningから回線を借り、「Softbank 4G」としてサービスを展開していることから、2.5GHz帯は日本の事業においても非常に縁のある存在でもあるのだ。

ソフトバンクが「Softbank 4G」として提供しているサービスには、Wireless City Planningが保有する2.5GHz帯のネットワークが用いられている

にもかかわらず、今回のクアルコムとの提携は、あくまでスプリントに限られるものとなり、日本のソフトバンクはこの枠組みの中に入っていない。将来的には共同開発によるノウハウが国内でも活用される可能性はあるかもしれないが、同じ周波数帯を持つグループ企業が参加していないというのは、やや不可思議な印象も受ける。

なぜ、2.5GHz帯に関するクアルコムとの提携が、スプリントだけに限られているのだろうか。そこにはソフトバンクグループが、スプリントを軸とした米携帯電話市場の再編を狙っていることが、大きく影響しているのではないかと筆者は見る。

孫氏は5月10日の決算説明会の場で、米国の政権が変わり規制緩和の機運が高まっていることを機として、一度断念した米国の携帯電話市場再編に、再び挑戦する意向を示している。その主軸となるのはもちろんスプリントだ。

孫氏は以前画策していたような、Tモバイルの米国法人など他社の買収だけでなく、スプリントの他社への売却など、相手や手段を限定することなく、スプリントを軸とした再編を実施したい考えのようだ。そしてソフトバンクグループは、再編に向けた交渉を優位に進めるためにも、以前は「誰も買ってくれなかった」ほど悪化していたスプリントの業績を回復させるとともに、将来性のある魅力的な企業であることをアピールし、企業価値を向上させる必要があるのだ。