ナビゲーション総合サービス「NAVITIME」をはじめ、カーナビアプリ「NAVITIME ドライブサポーター」や「カーナビタイム」、乗換案内専用アプリ「乗換NAVITIME」などのサービスを提供しているナビタイムジャパン。今回、ビッグデータ活用事例として、同社が手掛ける法人向けの交通コンサルティング事業に注目してみたい。

約450万人の有料課金ユーザーから得られるデータを活用

同社が提供する個人向けサービスの有料課金ユーザー数は約450万人、月間ユニークユーザー数は約3500万に達している。同社の交通コンサルティング事業は、これら各種サービスから得られる「走行実績(プローブ)」「検索実績」「口コミ情報」といった移動に関するビッグデータを活用し、法人向けに道路交通分析や移動需要予測などを提供するというもの。これによりナビゲーションだけでなく、交通自体の最適化および地域活性に基づく移動全体の最適化を目指している。

ナビタイムのナビゲーションサービス

同社が活用しているビッグデータは、大きく「携帯カーナビプローブデータ」「経路検索条件データ」「インバウンドGPSデータ」の3種類に分けられる。

ナビタイムの交通ビッグデータ

「携帯カーナビプローブデータ」は、カーナビアプリにより1~6秒間隔で測位したGPS座標から速度などを算出。ユーザーを匿名化した上で、そのプロットデータを交通量・交通流分析/所要時間・速度分析/走行挙動分析などに利用している。

「携帯カーナビプローブデータ」の分析パターン

「経路検索条件データ」は、発着地や日時といった各種経路検索の入力データを蓄積したもので、年間件数は2015年度で公共交通が約17億件、自動車が約1.6億件にも及ぶという。こうした経路検索は事前に行われるため、移動需要を示すデータとして交通や観光の需要分析に役立っているという。

分析の切り口についても、着目点に応じて交通機関別/出発地/目的地/季節変動/時間帯、さらには同一ユーザーが検索する観光地間の相関分析を行うアソシエーション分析などがある。

「経路検索条件データ」の分析パターン

「インバウンドGPSデータ」については、訪日外国人向けに提供している多言語対応の観光案内アプリ「NAVITIME for Japan Travel」から、ユーザー同意のもと日本国内での測位情報を取得。このデータを使って、統計処理および分析を行っている。これにより、エリア内の人気スポットやスポット別季節変動に関する街路レベルでの把握、国籍・性別・訪日回数と、目的を組み合わせた周遊傾向の分析。同時に行き先として選ばれるエリアの組み合わせや移動順番の把握などが可能になる。

訪日外国人動態分析」の分析パターン

さまざまな取り組みに活かされている分析結果

ナビタイムジャパンではプローブデータを2010年より、経路検索条件データを2012年より利用をスタート。2013年から、交通コンサルティング事業を開始し、2014年秋には訪日外国人向け事業でもデータ取得を開始した。こうして収集されたデータや分析結果は、「プローブ渋滞情報」「電車混雑予測」などの機能としてユーザーに還元するほか、交通コンサルティングの依頼を受けた法人に対しても、匿名化・統計化された上で提供される。

ナビタイムジャパン 交通コンサルティング事業部の髙橋一貴氏

ナビタイムジャパン 交通コンサルティング事業部の髙橋一貴氏は「大半は民間企業を経由しているものの、エンドユーザーとしては官公庁向けが多いですね」と、現在は官公庁におけるニーズが民間よりも先行している実情を説明した。受託案件として同社内でデータ分析を行うケースだけでなく、官公庁から調査を受託したコンサルティング企業に匿名化されたデータを提供することもあるという。

提供される主な分析としては「道路交通分析/国内観光分析/訪日外国人動態分析/混雑予測」が挙げられる。たとえば道路交通分析では、圏央道(首都圏中央連絡自動車道)の開通前後における東名高速道路から東北自動車道の経路分析で平均約28分の所要時間短縮が確認されたり、開通前後の経路分散状況や目的地に至る推定流入経路の把握、施設単位における移動実績の増加割合を算出、さらには右左折方向別の交差点分析が行われている。

道路交通分析(圏央道の整備効果)

道路交通分析(圏央道開通による利用パターンの変化)

国内観光分析については、各エリアにおける目的地検索ランキング、日別検索数、経路検索出発地分布といった、地域内の概要からスポットごとの詳細までを把握することが可能。また、アソシエーション分析を用いて、回遊行動や主要スポット間の関連性、競合スポットとの商圏比較、チェーン展開の立地最適化といった部分までをカバーしている。

国内観光分析(伊勢神宮・式年遷宮時の検索状況)

国内観光分析(アソシエーション分析)

訪日外国人動態分析では、ユーザーアンケートから国籍別/訪日回数別/訪日目的別の分析を行い、切り口に応じた動向の把握が可能。たとえば京都の伏見稲荷大社を訪れたユーザーのうち、駅から本殿にかけてはアジア系旅行者の回遊が多く、稲荷山の山頂まで登りきる回遊は欧米系旅行者に多いといった結果も出ているそうだ。

また、各エリアの滞在者数を1kmメッシュ単位、もしくは用途に応じた10km~125mメッシュ単位で自在に集計できるのも強みのひとつ。アソシエーション分析を使えば、目的地となった複数都市の相関から観光ルートを探ったり、主要な流入・周遊ルートの把握、行先エリアに応じた交通手段の判定なども行える。

訪日外国人動態分析(滞在分析)

訪日外国人動態分析(アソシエーション分析)

「駅混雑予測」では、日付/時間帯/到着駅ごとの検索回数を毎日集計することで、近未来の移動需要が検出でき、ユーザーに向けた駅混雑予報の配信が可能となる。また、別サービスである「電車混雑予測」では、朝の通勤ラッシュ時間帯における電車混雑を列車単位で予測することによって、空いている電車を見つけられたり、不動産業界においてはユーザーが会社までの通勤電車で混雑が少ない物件を探すサービスにも役立っているという。

混雑予測

交通コンサルティングの案件数は2年で約4倍まで拡大

ナビタイムジャパン 交通コンサルティング事業部 マネージャーの野津直樹氏

ビッグデータを活用したこのような分析について、ナビタイムジャパン 交通コンサルティング事業部 マネージャーの野津直樹氏は「そのニーズは年々増加しているという実感があります。実際に2013年度と比べて、2015年度では案件が約4倍に拡大しました。特に地域経済分析システム「RESAS」の提供が開始された2015年4月以降は、観光向けに活用されることも多くなっています」と語る。

さらに、こうした需要の増加を受けて、今後はパッケージ化によって調査コストを下げ、より身近なところにデータや分析結果を提供していくという。