東京大学(東大)は3月10日、眼の中に注射で注入でき、10分以内にゲル化し人工硝子体として使用できる生体適合性のハイドロゲルを開発、1年以上の期間にわたって安全性を確認したことを発表した。
同成果は、東大大学院工学系研究科の酒井崇匡 准教授(バイオエンジニアリング専攻)と筑波大学医学医療科眼系の岡本史樹 講師、同 星崇仁 助教らによるもの。詳細は3月9日(英国時間)発行の「Nature Biomedical Engineering」に掲載された。
網膜のさまざまな疾患に対して行われる硝子体手術では、硝子体置換材料として従来、ガスやシリコンオイルなどが用いられてきたが、これらは疎水性であるため生体適合性が低く、長期の使用には適さないという課題があった。また、眼の透明組織として、水晶体と角膜は人工物が開発されていたが、人工硝子体は未だ開発されていなかった。
今回、研究グループは、生体軟組織に似た組織を有しているハイドロゲルとして、新たな分子設計により、生体内に直接注入可能な、含水率の高い高分子ゲル材料を作製。ゲルが作製されてから分解されていくまでのすべての期間にわたり、膨潤圧を周辺組織に影響を及ぼさない1kPa以下のレベルまで低減できることを確認したほか、ゲル化過程を含め、周辺組織に対する毒性・刺激性も容認可能なレベルまで低減できることも確認したという。
この結果、液状のままで眼内に注入し、内部において10分以内にゲル化させることが可能になり、動物モデルを用いた実験では、人工硝子体として1年以上、何の副作用を起こすことなく使用可能であることを確認したという。
なお、研究グループでは、今回開発した人工硝子体を用いることで、従来のガスやシリコンオイルで必要となっていた再手術やうつ伏せ管理などを不要化でき、将来的な網膜疾患の日帰り治療の実現が期待できるようになると説明しているほか、癒着防止剤、止血剤、再生医療用足場材料などへの応用も期待されるとしている。