労力、コスト低減などの課題も
一方で課題も存在する。従来は半休眠状態にすることから温度と一般的な光源で調節していたが、労力とコストがかかるという。そのため、現在は青色(半休眠状態を誘導)、赤色(成長を誘導)、紫色(青、赤の中間の状態)のLED光の活用に可能性を見出している。荻原氏は「花芽のマーカーの遺伝子を用いて、どの色がその時の作物の状態に適しているかをITで制御できれば青・赤・紫色の使い分けが容易になるが、現状ではその解明に取り組んでいる」と現在の状況について説明した。
同氏は「世界の状況を見れば、作物の収量を増やしていく動きにシフトしており、例えばイタリアではリンゴの栽培方法として、従来は4~5年を要していたものを2年で着果する苗木を開発し、密殖することで全体の収量を高めている。一方、日本は品質が良く、高級ブランドを生産する栽培方法が確立しているものの、高級化による消費量の減少といった現状もある。そのため、ある程度の品質かつ安価で、年間を通じて消費できることが今後は望まれるのではないか。現在、農林水産省では、収量を高める遺伝子やマーカーを開発する動きもあるが、収量を高める品種を開発するには10年以上を要するため、われわれは栽培方法で収量を高めることに取り組んでいる」と説く。
将来的には、連続開花結実法はミカンやイチゴ、サクラボ、ブドウなど、そのほかの果樹にも応用展開が期待されているという。
未来の農業に期待するもの
今後、取り組む内容として荻原氏は「現在の植物工場では高価なため普及が難しい状況を踏まえ、簡易的な冷蔵庫の中でも環境設定さえ行えば環境を構築できる状況とし、ハウスでの果樹栽培を普及させていきたい」と意気込む。
そして同氏は「近い将来で実現可能なビジネスモデルは福島県川内村の実証実験を例に、対象となる作物の閑散期に企業が半休眠状態の苗木を農業者に貸し出し、年間を通じて同じ作物を生産することで、苗木を生産する企業と農業者双方とも収益の確保が狙えるだろう。また、果樹の生産をスタートさせて軌道に乗せるまでは5年程度要するため、果樹生産に意欲がある若い就農者に対しても有効ではないかと考えており、収量と品質を高めることはもちろんのこと、安定した収益の確保が可能なシステムの構築が急がれる」とも語る。
最後に「農業のIT化により、過疎化など地域のコミュニティが疲弊することも避けられる。農業は複合的に経営を成立させる産業のため、一元化・大規模化するとほころびがでてくる可能性もあり、規模に応じた栽培を可能とするシステムの登場が望まれる。そして、新たなビジネスモデルを構築し、就農人口の向上させることで若者が就農しても収益を確保できる魅力あるものに転換していかなければならない。企業が本格的に農業をはじめるのであれば、自社だけでなく若い就農者でも収益を確保できるモデルを提案していくことも重要なのではないか」と同氏は将来的な国内農業の展開に期待を込めた。