ソフトについては、初心者向けの“入門編”を作ることについて任天堂ほど適した存在は滅多にいないという気がする。これは一例に過ぎないが、ポップな世界観で三人称視点のシューティングゲーム(TPS)を楽しめるWii U向けタイトル「スプラトゥーン」は、子供が購入したにも関わらず、その親がはまってしまうという現象を生み出していると聞いたことがある。このケースには、ゲームをしたことのない人でもプレイしたくなるソフトを生み出すヒントがありそうだ。

「スプラトゥーン2」(2017年夏に発売予定)でゲームデビューする人が出てくるかもしれない

では、ゲーム以外のコンテンツは充実していくのだろうか。Wii Uでは、「ニコニコ動画」や「Hulu」といった動画配信サービスを楽しむことができたし、家庭用カラオケ機としての活用法もあった。

ニンテンドースイッチのゲーム以外のコンテンツは公開されていないが、任天堂は将来的に動画配信サービスに対応させる方針だという。タブレットのような形状で、液晶部分はタッチパネルになっているニンテンドースイッチの本体は、ゲーム以外の用途でも色々な仕掛けが工夫できそうだ。任天堂のアイデアに期待したい。

モバイルゲームが主流になったゲーム産業

発売前でもあり未知数な部分も多いが、ニンテンドースイッチがWiiのようなヒット作となれば、家庭用据え置き型ゲーム機の覇権争いが盛り上がるのは確実だ。しかし、任天堂の新型ゲーム機には、ゲーム産業全体を拡大させるような方向性も期待したいところだ。

カドカワのゲーム総合情報メディア「ファミ通」が「ファミ通ゲーム白書2016」を発刊する際に出したプレスリリースを見ると、世界のゲーム産業の市場規模は、スマートフォン向けのいわゆるモバイルゲームが伸張していることもあって、2015年は前年比で約25%増の8兆2,667億円と拡大している。その内訳は、家庭用およびPC向けパッケージゲーム市場が1兆3,080億円であるのに対し、モバイルゲーム、PC配信ゲーム、家庭用ゲーム配信を足し合わせたデジタル配信ゲーム市場は6兆9,587億円と圧倒的な差がある。

日本国内市場の推移はどうかというと、やはり全体の規模は拡大しているが、伸びているのは「オンラインプラットフォーム」のみで、「家庭用ソフト」と「家庭用ハード」のカテゴリーは縮小を続けているのが現状だ。この流れを受けてか、任天堂もソニーもモバイルゲーム事業への参入を決めており、任天堂については「スーパーマリオ ラン」の投入が記憶に新しい。

人気のIP(知的財産)を大量に抱える任天堂が今後、スマホ用ゲームを大きなビジネスに育て上げる可能性は十分にありそうだ。しかし、任天堂が提供する娯楽の本流は、あくまで家庭用ゲーム機にあるような気がしている。ファミコンでゲームの裾野を広げ、いまや8兆円を超えるまでに拡大したゲーム市場に礎石を据えた任天堂。ニンテンドースイッチでは、プレステ4に押され気味の「家庭用ハード」市場で存在感を取り戻すだけでなく、「家庭用ゲーム」全体の市場規模を底上げし、家庭におけるゲームの存在感そのものを再定義するような展開を期待したいところだ。