今夏にはユビキタスウェアの実証実験、10月からは生産管理システムを導入
今年の7月~8月にはSAC iWATAにおいて、ビニールハウス内での農作業者の状態を把握し、安全性の向上を図るため「FUJITSU IoT Solution UBIQUITOUSWARE」製品の「ユビキタスウェアバイタルセンシングバンド」を用いた実証実験を行っている。ユビキタスウェアについて野口氏は「個人単位のカスタマイズなど精度の向上を図ることが必要だが、不慮の事故などで作業中に大ごとになる前に検知してくれるのはメリットだ。今後は、さらに改良した上で次の実証につなげていく」という。
また、10月からは「食・農クラウド Akisai 生育管理システム agis」を導入した。ハンディターミナルを活用し、栽培現場での作業履歴収集とデータ管理を容易にするサービスで、多品種少量生産や、栽培植物をロットごとに管理する機会が多い植物工場や施設園芸での生育管理に適しているという。作業者はハンディターミナルを管理単位のロットに挿入している二次元コード(QRコード)付きタグにかざし、個体を識別しつつハンディターミナル上で作業実績を入力することができる。これにより、生育途中で栽培場所が変わる機会が多い植物工場などにおいても播種から収穫まで一貫した作業履歴の管理を容易としている。
ハンディターミナルで入力した情報はオフィスのパソコンなどに蓄積され、管理ロット単位で作業進捗や生育過程を視覚的に確認することができる。そのため、作業の遅れや対応状況などロットごとの集計や分析、生産管理の効率化につなげることを可能とするほか、実績データを作業者間で共有することで栽培技術の習得や作業品質の向上が見込める。
現在、SAC iWATAで稼働しているのはケールハウスのみだが、2016年度内には養液栽培を採用した施設面積1.2haのトマトハウス、ロックウール栽培を採用した同1.8haのパプリカハウス、NFT(Nutrient Film Technique:薄膜水耕)方式を採用した同0.7haのサラダほうれん草やクレソンなど栽培する葉物野菜ハウス、同0.3haの種苗研究ハウスの稼働を予定し、同社では土耕、水耕、養液栽培の各テクノロジーを有することとなる。
農業のアウトソーシングビジネスの確立
このように同社では各種作業のIT化を推進し、効率性の向上や業務改善につなげている。IT化を踏まえた、これからの国内の農業のあり方については大規模化が進むと想定しており、ITの活用で効率化を図ることが浸透し、市場が形成されていくと想定している。また、IT化にはハードとソフトを含めた運用管理が必要なため、経営感覚を持つ生産者が増加していき、収益を確保するという効果を実証することでIT化の促進を図るという。また、就農できる環境を整備していくことが重要だとも指摘している。
同社における今後の事業展開の見通しや戦略について伊藤氏は「現在は生産・加工を行うフェーズで、その次はそこで得たノウハウを水平展開するためインフラやオペレーションを農業生産者に対し、アウトソーシングしていくビジネスを考えている。また、世の中で埋もれている品種を開拓し、栽培ノウハウと施設をセットでライセンス化する種苗ライセンス事業を行うことも計画しており、現在は増田採種場などの種苗会社とビジネスモデルの検討を進めている段階だ」と述べた。
種苗ライセンス事業は、過去に種苗会社が開発したものの、製品化されなかった種苗の製品化を支援することにもつながるほか、日本の種苗は機能性や味・品質が良いため高付加価値化が図れ、日本の国際競争力の向上も期待できるという。
野口氏は「農業の生産による収益確保が第一であり、ITで効率化していく領域を構築することで広く使えるような状況とし、将来的にはインフラサービスとして提供していきたい」と展望を語っており、将来的な農業のアウトソーシングビジネスを見据えた同社の動向が今後も注目されるだろう。