関西医科大学は10月1日、喫煙の悪影響メカニズムを医学的に解明したと発表した。
同成果は、関西医科大学附属生命医学研究所 侵襲反応制御部門 広田喜一 学長特命教授らの研究グループによるもので、9月29日付の英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
喫煙は、これまでの疫学的研究と基礎医学的な研究により、癌だけでなく虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)や脳卒中など循環器系、また肺炎や慢性閉塞性肺疾患(COPD)など呼吸器系の疾患の原因とされている。しかし、喫煙がCOPDを引き起こす細胞生物学的なメカニズムについては、明らかになっていないことが多い。
今回、同研究グループは、体の中の酸素分圧変化を感知してさまざまな生体応答を司る低酸素誘導性因子1(hypoxia-inducible factor 1:HIF-1)に着目。気管支の炎症が慢性的に続いた結果、気道壁が厚くなり気管支の内腔が狭くなる「気道のリモデリング」と喫煙との連関について調べた。
具体的には、まず、ヒトの肺胞と気道上皮から培養した細胞をたばこ煙抽出液に暴露し、HIF-1の活性化と、HIF-1が発現調節を担っているとされていて、かつ気道のリモデリングに関連が深いと報告されているvascular endothelial growth factor (VEGF)、Matrix metalloproteinases(MMPs) DNA damage response 1(REDD1)などのタンパク質の遺伝子発現を調べた。さらに、装置を用いて喫煙させたマウス喫煙モデルを使い、HIF-1の活性化、遺伝子発現を調査した。
この結果、培養細胞内では、たばこ煙抽出液への暴露によってHIF-1αのタンパク質とメッセンジャーRNAの発現がともに増加。また、この誘導は4時間をピークとし、以後元の状態に戻っていくことが判明した。さらに、VEGF、MMP、REDD1などのメッセンジャーRNA発現はHIF-1の活性化に依存して増加することが明らかになった。また、この反応は、たばこ煙抽出液による細胞内活性酸素の増加が必須であり、活性酸素を減らす抗酸化剤処理を行うことで抑制できることがわかった。
さらにマウス喫煙モデルを用いた検討では、喫煙が肺胞・気道上皮においてHIF-1aタンパク質の発現を誘導することと、VEGF、MMP、REDD1などのメッセンジャーRNA発現の促進をもたらすことが示された。
同研究グループは今回の成果について、喫煙と慢性気管支炎、肺気腫、COPDのさらなるメカニズム解明や新しい治療戦略の模索につながることが期待されると説明している。