近年、広く知られるようになった「シェアリングエコノミー」という概念。それに伴い、個人間でのシェアリングサービスが盛り上がりを見せている。今や、時間や不動産、ファッションアイテムなど、シェアされるものは多岐に渡る。

昨年9月、株式会社ディー・エヌ・エーが提供開始した、個人間カーシェアサービス「Anyca(エニカ)」」もその一つだろう。車を使わないとき、使いたい人にシェアしたい「オーナー」と、必要なときに好みの車に乗りたい「ドライバー」とを専用アプリ「Anyca」を通じてマッチングするサービスだ。

一方で、Anycaは個人間でクルマをシェアするCtoCのサービスだが、企業が個人にクルマをシェアする、BtoCのカーシェアリングサービスやレンタカーサービスも既に多く存在する。既存のBtoCサービスとの明確な違いはどんなところにあるのか。株式会社ディー・エヌ・エー オートモーティブ事業部 カーシェアリングマネジャー 大見周平さん、同事業部 雲井雄基さんにサービス開始の背景や今後の展望などを含め、詳しく話を聞いた。

--そもそも自動車領域の事業に参入した背景には何があったのでしょうか?

大見:ディー・エヌ・エー自体が、当時会社としての規模感が時価総額約3,000億円と大きくなり、小規模なWebサービスのみを立ち上げても、大きな企業成長につながらないフェーズに来ていました。そんな中、新事業の候補に挙がったのが、巨大な市場規模を持つ自動車領域だったんです。

オートモーティブ事業部 カーシェアリングマネジャー 大見周平さん

法律面や社会インフラ、業界構造が複雑で、バリューチェーンが何層にも及ぶ巨大産業への参入のチャンスはまさに今だということ、企業体力的にも社会的にも優位性を出せますし、数年間単位で投資するに値する領域であるという経営側の判断もありました。

また、モビリティとモバイルは同じ語源であるように、車とモバイルインターネットとは相性がいいんです。動体であり、常に動き回り、クラウドでつながることで付加価値を出せますし、弊社のノウハウも活かせるだろうと考えたんです。

--その自動車領域の中でも、個人間カーシェアサービスを選んだのはなぜですか?

大見:アメリカや中国で一足早く、個人間のカーシェアサービスが広がっていると聞き、日本でもビジネスチャンスがあると確信したからです。

また、シェアリングエコノミーの概念そのものを理解するにつれ、若者がもっと車に気軽に乗れたり、持てたりするようになればいいな、という思いもありました。「若者のクルマ離れ」なんて言われていますが、本当はそんなことないんです(笑)。

---開発するにあたり、既存サービスとの差別化ポイントとして、最もこだわった部分はどんなところですか?

大見:サービスのコンセプトを伝えるためのマーケティングコミュニケーションやブランディングを大事にしています。Anycaを使う人は「より先進的でスマートな生き方をしている」「センスがいい」「情報感度が高い」といった空気づくりを行うことが、他のサービスと差別化するにあたり、大前提としてあります。

たとえば、「個人間で車をシェアして収入にしましょう」「維持費削減のために他人に車を貸しましょう」とアピールしても、サービスとしてカッコいい印象はないですよね。全然お洒落じゃないですし、近代的ではありません。

僕たちが訴求するのは、日本全国6,000万台の車がカーシェアされ得ることで、利用できる車種の豊富さが増すこと、個人間ならではのコミュニケーションが活性化することの面白さです。これらは他のBtoCサービスでは出せない部分だと思います。

雲井:ちなみに、多くのオーナー様が鋭いビジネス感覚を持っていたり、経済合理性を考えていたりします。大好きな車だけれど、今はあまり乗る機会がない。だから乗りたい人に楽しんでもらいたい――そのことに心地よさを感じてシェアされている方が大半です。

オートモーティブ事業部 雲井雄基さん

大見:オーナー様自身も、既存サービスとの差別化ポイントを意識されています。たとえば、既存のレンタカーサービスと同程度の金額を提示した場合、同じ車種を登録していても、問い合わせは来ないだろうといった感覚をお持ちです。既存サービスの半額もしくはそれ以下の金額で登録されているケースが多いですね。