--オーナーはどのようにして増やしましたか?

大見:初期の頃は、オンライン/オフライン問わず、車のコミュニティに顔を出しては、Anycaのコンセプトを一人ひとりに対して説明していましたね。毎週末誰かと会っていたくらい(笑)。けっこう泥臭い活動をして、1台1台登録してもらっていました。

中には、車を恋人のように扱い「他人にシェアするなんてありえない!」というほど車好きな方もいますが、その良さを他人と分かち合いたい方もいます。「車好き」「シェア好き」というベン図が重なる部分はそう多くないので。

シェアしたい気持ちのある方には説明会に来ていただいたり、参加者でその後飲みに行ったりしました。また、サイトや記事を見て「あの車もシェアされているなら、自分も(シェアしようかな)」といった潜在意識を刺激する空気づくりもしましたね。

シェアしたい人は独特の価値観を持っています。そもそも、自分のお金をかけてカスタムした大事な車を他人にシェアして、その良さを分かち合いたい、となるまでには様々な障壁があるからです。

Anycaを利用される方には、リスクを飛び越えて、人とのコミュニケーションそのものをオープンに楽しみ、気の合う人と出会えたら友人関係に発展させていけるような、「ソーシャルっぽい」人物像があると思いますね。

--現在は、ユーザー獲得に向けて、どのようなマーケティング手法をとっていますか?

雲井:オーナー様向けには、Facebookやニュースアプリなどのオンラインの広告を、エリアを絞る形で使っています。とくにFacebook広告の効果が高いです。直接会って車を受け渡すという、オンラインだけで完結しないサービスの特性上、エリアを限定することは欠かせません。ユーザーが多い一都三県の方に届くよう、車や特定のメーカーに関心を持っている方向けに、広告を出しています。

広告のほか、Anycaを使った友達からの口コミを通じて、新規ユーザーになる方も多いです。また、プロカメラマンによる無料の車撮影会やオーナー様向け説明会を開催しており、そこが入り口となっている方もいますね。一方、ドライバー様は口コミ経由で入ってくることがほとんどです。

--登録車数やユーザー数、属性を教えてください

大見:登録車数は1,000台、ドライバー様は3,000人、アプリ登録者数は30,000人を超えています。カーシェアされた回数は2,500回程度(いずれの数字も2016年2月末時点)です。車の台数が増えれば自然と流通額も増えていきます。

雲井:ドライバー様は20代前半~30代後半がボリュームゾーンで、平均年齢は30歳くらいです。オーナー様はそれ+5~10歳上で、平均年齢は38歳くらいですね。

--安全・安心を維持するために、どのような取り組みを行っていますか?

大見:ドライバー様には東京海上日動様の1日自動車保険への加入を必要とするほか、免許証や車検証の写真をいただいて調査し、犯罪履歴のある方は入会自体をお断りします。また、サービス利用実態の悪い方については、弊社の基準に抵触する場合、サービスの利用を停止しています。

さらに、互いのプロフィールや利用実績、レビューなどを確認しやすいサービス作りを徹底し、ユーザー双方が「この人は信頼できる」「信頼できない」といった判断をしやすい形にしています。もちろんカスタマーサポートも24時間365日対応です。

とくにレビューは大事にしていますね。9割5分くらいのユーザーが書いてくれています。出したい情報はたくさんあるものの、限られたスペースの中で、レビューを表示する優先順位は高めに設定しています。Webサービスの中でも会員基盤の健全さに関しては、これからもクオリティを高くしていきたいですね。

CtoCのWebサービスが花開くには一定期間を要する

--最後に今後の展望と課題について教えてください。

大見:スマートキー機能を搭載した専用のハードウェアデバイスを開発しており、近くトライアル利用を開始する予定です。Anycaアプリで本デバイスを取り付けた車を操作すると、車のドアの解状・施錠が自動でできます。夏頃には一般の方にも利用いただけるよう進めていますが、あくまで予定です。

事業上の課題としては、ティッピング・ポイント(それまで小さく変化していたある物事が、突然急激に変化する時点を指す)をどのタイミングにもってくるか、だと思います。

最初はどうしても需給の数が少なく、サービスが過疎ってしまうこともありますが、密度が濃くなり、複数の友人が使っている状況になると、使いたい人が一気に増えて、成長曲線が変わる瞬間がやってきます。それを見据えた上で、いつまでにどれくらいのスピード感で作るか、正しく判断する必要があります。

今は「この車種に乗れる」という特殊な熱を持ったユーザーが中心ですが、将来的には全国の幅広い方々にも使っていただけるようになりたいです。より広い層へ使っていただく為には「便利で安い」ことが大切で、そこで効いてくるのが、先に申し上げたハードウェアなのかなと考えています。

CtoCモデルのWebサービスは成功パターンが決まっていて、成長曲線が変わるまでAirbnbだと5~6年、Uberだと3~4年はかかっています。Anycaに関しても、少なくともこれから1年半~2年はコアユーザーをベースに、サービスのカルチャーやブランディングを形成していく、重要な第1次フェーズなのかなと僕たちは位置づけています。