記者会見に登壇したKDDI 代表取締役社長 田中 孝司氏(左)とヤマトホールディングス 代表取締役社長 山内 雅喜氏(右)

KDDIとヤマトホールディングスは1月27日、新大型物流拠点「KDDI 東日本物流センター」(神奈川県相模原市 ロジポート橋本)で、ヤマトロジスティクス提供のクラウド型ピッキングシステム「FRAPS」の運用を開始すると発表した。

FRAPSはFree Rack Auto Pick Systemの略称で、ヤマトホールディングスが掲げる「バリュー・ネットワーキング」構想を支える1つのソリューションとなる。可動式ラックを並べたロールボックス・パレットとデジタルピッキングのラインを併せ持っており、事業者が在庫を分散させることなく、大消費地近くに複数拠点を持つ事業者と同様のスピード・品質を実現する。

例えば、これまでのスピード配送の場合、自前の倉庫と3PL事業者(ロジスティクス事業者)の倉庫を大消費地の近くに持って購入者へ配送を行う方法が一般的とされている。一方で、FRAPSは、事業者の倉庫の一部をヤマトグループのネットワーク上に組み込むため、在庫をネットワーク上で流動させられる。これにより、大消費地の近くにおいて、自社倉庫の一部機能が置かれるようなイメージで、運用が可能になる。

KDDI 東日本物流センターは、総床面積が5万400平方メートルで、神奈川県相模原市に位置するラサールの物流拠点「ロジポート橋本」の3階、4階を活用している。この物流拠点では、au携帯電話・スマートフォンだけでなく、au +1 collectionも取り扱うという。

同社は、2015年12月にスタートしたauショップにおける物販サービス「au WALLET Market」やスマートフォンアクセサリなど、ショップにおける荷物受入業務が増加していることから、スピーディーな配送や店舗における負荷軽減を目的として、今回の物流改革にこぎつけた。現状では、携帯電話・スマートフォン本体とアクセサリなどの周辺機器の取り扱いのみで、au WALLET Marketの生鮮食品などの商品を取り扱うほかは「検討段階」(KDDI 理事 購買本部長 赤木 篤志氏)としていた。

ヤマトと"タッグを組む"KDDI

記者会見で赤木氏は「作業効率が3割改善できる」と、新拠点のメリットをアピールする。これまでの物流管理は、独自の取り組みを進めていたが、FRAPSの導入や検品作業など、ロジスティクス作業を「ヤマトとタッグを組む」(赤木氏)ことで、最適化する。通常、こうした物流の最適化はアウトソーシングすることが多いが、「物流の最適化を図るために、奥深くシステム連携も進めている」ことから、アウトソーシングというよりも、"タッグを組む"という形で、物流の最適化を図るようだ。

KDDI 理事 購買本部長 赤木 篤志氏

ヤマトロジスティクス 代表取締役社長 本間 耕司氏

スマートフォンの普及に伴いアクセサリの取り扱いも増加、パッケージ取扱量が格段に増えたという。また、KDDIは物販などの関連商材の多角化も進めており、単なる"携帯ショップ"でなくなることで、タッチポイントが拡大し、さらに物流が重要になってくるようだ

一方のヤマトホールディングスも、物流改革の「バリューネットワーキング構想」を掲げており、2013年8月に開所した厚木ゲートウェイや国際物流拠点の羽田クロノゲートなど、大規模拠点間の幹線輸送を活用した物流の最適化を進めている。KDDIとは2013年10月より、FRAPS導入などの協議を進め、厚木ゲートウェイから車で20分ほどのこの地に新拠点を構えることに決めたという。ヤマトロジスティクスのFRAPSは可動式のラックやマージソータを活用して、これまで細かく分割されていた荷物をまとめて梱包することで、配送の効率化を図る。このFRAPSの機械を導入した企業の事例としては過去最大のものとなるという。

かねてよりバリューネットワーキング構想を掲げるヤマト運輸。厚木ゲートウェイや羽田クロノゲート内でもロジスティクスサービスを提供しており、付加価値提供エリアは満床に近いとのことだ

こうした物流の最適化を図ることで、在庫管理についても集約を進め、全国に83カ所、東日本に47カ所ある物流拠点を、今年度末までに13拠点まで減らす。また、その後は1桁台後半まで減らす構想とのことで、2017年度に設置予定の関西拠点と合わせて運搬時間やコストの低廉化を進める。

「物流はコストがかかるものでしたが、(これからは)バリューを生み出すためのものに進化する。ロジスティクスのLTと情報システムのIT、決済のFTを組み合わせて価値あるものに物流を改革する。われわれは宅急便のB2Cビジネスのイメージが強いがB2B分野でも価値を高める、お手伝いをしていきたい」(ヤマトホールディングス 代表取締役社長 山内 雅喜氏)

また、会見前に物流センター内を見学したというKDDI 代表取締役社長 田中 孝司氏は、センターについて「感動した」と話し、物流改革に関する手応えを語った。

「KDDIの物流改革は、2012年に"物流改革室"を設置して検討を行ってきたが、今日が晴れの日となった。同時期に3M戦略を発表して、その後、スマートパスやau WALLET Marketなどを世に送り出した。(2012年)当時はまだWALLET Marketがシナリオの段階だったが、それを基にプランニングしたのが今回の改革になる。

ここは、ヤマトの厚木ゲートウェイから車で20分で、ヤマトの日本国中をカバーする物流ネットワークにつなくことができる。大量のモノをリアルタイムに配送できることでモノが自動的に動く、そんな仕組みを構築できたと思う」(田中氏)

KDDI 東日本物流センター内の作業スペース

記者会見はKDDI 東日本物流センターで行われ、会見後には報道陣向けに、ロジスティクスの作業工程の説明が行われた。

積み上げられたauの箱

メーカーからスマートフォン本体やアクセサリなどが、この物流拠点に送られてくる。写真はサムスンのケージ

可動式ラックを用いることで作業の効率化を図る

発送する際に、熟練作業員以外でもミスすることなく商品をピックアップできるよう、商品名(コード)を指示するのではなく、ランプの点灯と個数で必要なものを知らせる。必要な個数をピックアップしたら、点灯しているボタンを押して終了確認を行う

検品作業を行うエリア。検品と梱包作業を分けて、配送先が間違えていないか、IMEIの確認などの作業を行い、ミスを減らす

ROM書きエリアも用意されており、こちらでは法人向け出荷など、通常とは異なるソフトウェアを必要とする場合のキッティング作業を行っていた

これがFRAPSの自動仕分け機「マージソータ」。名前の通り、発注が異なっていても送り先が同一の場合に、1回の輸送で送り届けられるように荷物を"マージ"する

梱包され、ヤマトの厚木ゲートウェイへと送り届けられるauの箱。ゲートウェイから店舗や個人宅へと配送されていく。ヤマト運輸はゲートウェイ間の幹線輸送を夜間だけでなく日中時間へと広げる予定で、中部ゲートウェイと関西ゲートウェイが2017年度までに完成する。KDDIも2017年度に関西で東日本物流センター同様の施設を構える予定だという

ヤマト運輸に無事引き渡し

10年以上前に消滅したはずの旧ロゴが貼られたラックがいまだに利用されていた。見つけて喜んだ人間は筆者だけだった