住宅設備・建材の総合メーカーであるLIXILは12月2日、東京大学大学院 情報学環ユビキタス情報社会基盤研究センター長である坂村健教授と共同で、住生活におけるIoTの活用に向けた「LIXIL IoT House プロジェクト」を開始したことを発表した。
同社は、2020年までに「世界で最も企業価値が高く、革新的で信頼されるリビングテクノロジー企業となる」というビジョンを掲げており、このビジョンのもと、これまでも人やモノ、家が情報で結びついた「住生活の未来」について研究を重ねてきた。2009年に研究を開始した研究施設「U2-Home(ユースクウェアホーム)」では、センサーを使用し、生活シーンに合わせて住環境をコントロールするなど、情報化された住まいでの生活について研究してきた。
LIXIL 代表取締役社長 兼 CEOの藤森義明氏は、「LIXIL IoT House プロジェクト」の開始に至った経緯について、次のように説明した。
「われわれの競合や未来について考えたとき、今の競合相手は10年後、20年後の競合相手ではないだろう。今と同じ延長線上の2030年や2040年を考えると、今とはまったく違った競合がビジネスを持って行ってしまうのではないだろうか。本当の競争相手は、メーカーではなく、IoTやビッグデータを持っている大きな会社や、ソフトとハードを組み合わせていくような技術を持つ会社だ。今まさに、新しいことを考え出さないと、10年後、20年後の未来はなくなってしまうかもしれないという危機感が、IoT House プロジェクトを立ち上げるきっかけとなった」(藤森氏)
本プロジェクトでは、社員モニターを活用した実生活での検証や、理想モデルに基づく実証実験施設での検証などを通じて、住まいの中でのIoTの可能性を追求していくとしている。
LIXIL 取締役 専務執行役員 R&D本部長の二瓶亮氏は、住まいのIoTの可能性について、次のように述べた。
「IoT Houseによって、新しい住生活や生活価値の向上、家自体の性能の向上、さらには今まで以上に地域社会とつながる豊かなコミュニティ社会の実現へと広げていくことができるだろう。例えば、人の排泄物にはたくさんの健康情報が含まれており、この情報をトイレがセンシングすることで、健康状態を人に伝えたり、予防医療や健康管理へつなげていくことができる。また、IoTで獲得した情報を使って、家の中で人の動きを見守り、安全・安心な暮らしの実現や、家の実年齢を把握しながら、最適な手当をすることで、家全体の性能の向上を図ることができる。さらに、IoT Houseを介して家に住まう人同士や、人と人とのつながりを地域コミュニティにつなげていくことで、リアルな社会での関わりが広がり、世の中を明るくすることにも貢献できるだろう」(二瓶氏)
また、住まいのIoTに大切なこととして、「いつまでも使い続けられること」「プライバシーが守られていること」「非常時でも困らないこと」「簡単に設置し、簡単に使えること」が挙げられ、これらのポイントがクリアされるよう、検証を進めていくという。
約30年前から住宅の未来について研究を重ねてきたという坂村教授は、今回のプロジェクトについて次のような意気込みをみせた。
「80年代と比べて何が変化してきたかというと、コンセプトや機能は同じでも、実装技術が非常に変化してきた。例えば、半導体の大きさやネットワーク技術の進歩である。昔はコンピューターとセンサーをつなぐには大量の電線が必要だったが、IoT Houseは無線でつながってしまうだろう。すべてのものがインターネットにつながっているということは、住宅の部品全部が直接的に、インターネットに直結できる時代だということ。これは今までできないことだった。しかし、この部品が大量生産されないと、IoTの住宅を一般に普及させることはできない。IoTが住宅に適用できるかどうかは、部品メーカーにかかっている。これまでの研究の知見をこのプロジェクトにたたきこむことによって、LIXILと世界最高の住宅をつくる。2017年には、その時点で考えられる最高の未来住宅をつくる」(坂村氏)
今後のロードマップとしては、まず第1フェーズ(2015年~2016年)で構想・予備実験を行い、第2フェーズ(2016年~2017年)では実証環境の構築、そして第3フェーズ(2017年~)では、実際に実証実験による有効性の検証が実施される予定となっている。