東京大学は10月16日、これまでガラスにならないと思われていた、酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化タンタル(Ta2O5)のみからなる新しい組成のガラスの合成に成功したと発表した。このガラスは、酸化物ガラスの中で最高の弾性率を有しているという。
同成果は同大学生産技術研究所の増野敦信 助教、大学院工学系研究所のロサレス グスタボ氏、高輝度光科学 研究センターの肥後祐司 研究員らによるもので、10月15日付の英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
弾性率の大きなガラスであれば力をかけても変形しにくくなるので、薄くて丈夫なガラスが開発できる可能性がある。ガラスの弾性率を上げるには、原子間の隙間がなるべく小さくなるような構造をとることが必要とされ、そのためにはAl2O3の含有量を増やすことが有効であるとされる。
これまではAl2O3をなるべく多く添加できるような組成設計指針のものとに組成開発が行われていたが、Al2O3は中間酸化物に分類されることから、大量に含有させるとガラスにはならないという課題があった。
今回の研究では、Al2O3とTa2O5を1:1の組成で混ぜ、物質を空間に浮かせた状態で合成を進める無容器法を用いることで無色透明なガラスの合成に成功。超音波パルスなどによる測定では、合成したガラスは、ガラスというよりは鋼に近い弾性率を示したという。
さらに、走査型透過電子顕微鏡でAlとTa原子の分散状態について、核磁気共鳴でAl原子核の局所環境について調べたところ、AlとTaが原子レベルで均一に分散していることや周囲の酸素の数が5であるAl原子の割合が非常に多く、ガラスは全体的に隙間なく密に詰まっていることがわかった。通常の酸化物ガラスにAl2O3を少量添加した場合ほぼ4配位になり5配位は珍しいが、同研究グループはこの特異な局所構造はTaによってもたらされていると提案している。
同研究グループは開発したガラスの弾性率が極めて大きいことから、薄くしても丈夫な新素材としてエレクトロニクス用基板、建築材料、カバーガラスなどへの応用が期待されるとしている。