ここまで読んだ読者の方は、なぜ掲載されている媒体が「モバイルソリューションカテゴリなのか」という疑問が湧くかもしれないが、実はこのゲーム、「iBeacon」を活用している。つまり、「てがかり」も「鬼」も、すべてiBeaconで判定しているというわけだ。

「こうしたゲームでiBeaconを活用した事例は聞いたことがない」

DAS 代表取締役社長 / CEO 小川 真輔氏

そう語るのは、今回のイベント企画・運営と開発を行ったDAS 代表取締役社長 / CEOの小川 真輔氏。DASはこうしたリアル系イベントにデジタルを組み合わせた「リアルゲーム・エンターテイメント事業」を得意としており、リアル謎解きゲームなども手がけている2012年1月創業のベンチャー企業だ。

元々、映画を配給しているアスミック・エースとリアル系イベントで付き合いがあり、「リアル鬼ごっこらしい仕掛けをしよう」という話から、今回のイベントが生まれたのだという。そこに、先進的な取り組みに定評のある富士急ハイランドが加わることになったのだが、iBeaconを使うという企画をベースに据えることは「元々決めていた」と小川氏は話す。

「こうしたリアル系イベントで、通信関連技術を活用する話では、NFCやRFIDなどを想起される方も多いと思います。

しかし、今回のプレイヤーがどう動いて、どう遊んでもらうかを考えた時、ユーザーがいる、鬼がいる、探索ポイントも必要と考えた時に、三者の関係性をひとまとめで実現できるソリューションがiBeaconだったんです」(小川氏)

NFCはFeliCaにも内包されている非接触の近距離無線通信技術として有名だが、近距離も近距離で、最大でも10cm程度しか通信が行えないとされている。NFCのメリットは逆に言えばそれだけの近距離無線通信技術として、FeliCaとしての活用はもとより、FeliCa技術を利用するほど高セキュリティ環境が必要でないコンテンツ、例えばクーポンの取得を、スマートフォンをかざすだけで行えるメリットは、体験したことがある人も多いのではないだろうか(そもそもFeliCaのおサイフケータイ、交通系ICカード利用者の大半が体感しているだろうが)。しかし、NFCはそうした問題よりも、日本で最大のシェアを持つiPhoneがNFCに対応していない(iPhone 6はチップのみ搭載)事実がある。これでは多くの人が楽しむイベントには使えない。

また、NFCとは異なるセンサーネットワークなどに活用されるRFIDも、例えばイベント会場の入出記録などに活用される事例もあるが、スマートフォンで手軽に体験できるようにするためには課題がある。そこで、どのスマートフォンにも搭載されているBluetoothの一要素技術「iBeacon」を活用しようとしたわけだ。

「社会の課題解決を図る実証実験などではiBeaconを活用した事例が徐々に揃いつつありますが、こうしたリアル系イベント、エンターテイメントの領域ではまだ事例がない。この技術を引き立たせた、実用的なものを作りたいと思い、今回の企画が進みました。

NFCについては、弊社でもイベントで利用したことがあります。ただ、それは2012年というNFC普及段階の取り組みで、NFC搭載端末も流通量が少なく、試行錯誤でNFCチップ入りバンドを提供したりという試行錯誤を行いましたが、かなり課題が見つかった。

今回は、てがかりのポイントと鬼に近づいたことがわかる両方の実現を考えた時に、ある程度の距離でもつかめるiBeaconの存在があったんです。NFCを使うならただのクイズラリーですけど、これは違う。アイテムを取りに足を運び、鬼から逃げ、というRPG的な要素が含まれる"おもしろさ"がある」(小川氏)

てがかりを見つけるポイントで見つけたiBeaconのビーコン端末(アプリックス製)。遊んでいて電波が捕まらないこともあるが、それは後述する理由のほかに、厳密にその位置には置いていない可能性もある。壁を隔てた奥など、そうした微妙な位置のさじ加減は、こうしたゲームの腕の見せどころである一方、難しすぎるとユーザーの満足度も低減してしまうところで設定は悩みどころかもしれない。DASはエリア外から中に入るしきい値を厳しく設定する一方で、インからアウトをゆるく設定しているので、その場に居続けていると判定しやすくなっている