国立がん研究センターは6月15日、乳がん細胞の抗がん剤耐性メカニズムに特定のマイクロRNAが関与していることを確認したと発表した。
同成果は同研究センター研究所分子細胞治療研究分野の高橋陵宇 研究員、落谷孝広 主任分野長の研究グループによるもので、6月12日付(現地時間)の「Nature Communications」に掲載された。
これまでの研究では、薬剤のがん細胞外への排出機序をはじめとして、耐性化に関わる分子自体を解明する研究は多く行われてきたが、「なぜ耐性化が誘導されるのか」という点は十分に解明されていなかった。
これまでの研究で、ドセタキセルという抗がん剤の耐性化に伴い、複数のマイクロRNAに発現低下あるいは欠損が生じることが報告されている。今回の研究では、このマイクロRNA群の中で、多くの乳がんで染色体異常が報告されている第9番染色体に位置するmiR-27bというマイクロRNAに注目し解析を行った。
その結果、miR-27bの発現が低下した乳がん細胞では、ドセタキセルなどの薬剤を細胞外に排出する分子の発現が亢進し、抗がん耐性が獲得されることが判明した。さらに、miR-27bの標的分子であり抗がん剤耐性を誘導する分子として、糖尿病の関連因子であるENPP1を同定し、乳がんの悪性度を亢進させる可能性があることもわかった。ENPP1は乳がんにおいて発現量が高く、悪性度や骨転移にも関連している。
また、動物実験でmiR-27bの発現が低下している細胞集団ではドセタキセル耐性だけでなく、腫瘍形成の維持および亢進が認められた。このことから、miR-27b発現が低下している細胞集団の乳がんの幹細胞集団の形成にも大きく関与していると考えられている。
今回の成果は、miR-27bの発現を調べることでドセタキセルに対する感受性の変化を予測しながら行う治療の実現だけでなく、ENPP1の関与も明らかになったことから、糖尿病治療薬で、ENPP1の発現を抑制する作用のあるメトフォルミンのがん治療への応用へつながることが期待される。