CRS-2とは

ロッキード・マーティン社は、このジュピターとエクソライナーで、NASAが計画する「第2回商業補給サーヴィシズ」(CRS-2, Commercial Resupply Services-2)契約を獲得することを狙っている。CRSとは、NASAが進める、国際宇宙ステーションへの物資の補給を民間企業に委託する計画のことだ。

国際宇宙ステーションは自給自足ができないので、定期的に地球から水や食料、酸素、衣服や日用品、医療品など、人間が生活するうえで必要な物資を送って補給する必要がある。またステーションで使われている機器の予備部品や、ステーション内で行われる実験のための機器なども地球から打ち上げなければならない。以前までは、スペースシャトルやプログレス補給船など、宇宙機関が開発した宇宙船や補給船のみがその役割を担っていたが、NASAは2000年代に、コストの削減と宇宙産業の振興の一挙両得を狙い、民間企業に補助金を出し、ロケットや補給船、宇宙船を開発させ、運用を担わせることを目指した計画を立ち上げた。

そして審査の結果、最終的にスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(スペースX)社とオービタルATK社(当時はオービタル・サイエンシズ社)が選ばれた。スペースX社は「ファルコン9」ロケットと「ドラゴン」補給船、オービタルATK社は「アンターリズ」ロケットと「シグナス」補給船を開発し、NASAと第1回商業補給サーヴィシズ(CRS-1)契約を結び、現在までにスペースX社が5回、オービタルATK社が3回(ただし1回はロケットの打ち上げが失敗)、補給ミッションを行っている。

このCRS-1契約は、2016年までにスペースX社が12回、オービタルATK社が8回の、計20回のミッションを行うこととなっており、2017年以降はまた新たに委託先が選定され、契約が結びなおされることになっている。

この第2回(CRS-2)の契約の提案依頼書(RFP)は、2014年9月25日にNASAから発表されている。その内容はCRS-1とあまり変わらず、要約すると「与圧、非与圧貨物を国際宇宙ステーションまで運ぶこと」、「ミッションの終わりには、ステーションで生み出された成果物などを地球に持ち帰るか、あるいはステーションで発生したゴミと一緒に地球の大気圏で燃え尽きること」と定められている。期間は2018年から2020年まで、またオプションで2024年まで延長される可能性も含まれている。その間、1年あたり1回から5回の補給ミッションを行う必要があり、総ミッション回数では6回以上と定められている。CRS-2の契約先は最低1社、多ければ数社が選ばれることになっている。

現時点でこのCRS-2には、CRS-1に引き続いてスペースX社とオービタルATK社が名乗りを挙げており、またシエラ・ネヴァダ社が有翼宇宙船ドリーム・チェイサーの貨物機版を、さらにボーイング社もCST-100宇宙船の貨物機版を提案している。今回、ロッキード・マーティン社が発表したジュピターとエクソライナーも、この競争に加わることになる。

すでに名乗りを挙げている全社は、昨年のうちにNASAへ提案書を提出しており、今現在NASAの内部で審査が行われている最中だ。結果は今年5月に発表される予定となっている。

国際宇宙ステーションに結合されるジュピターとエクソライナー (C) Lockheed Martin

宇宙タグボートが持つ可能性

ロッキード・マーティン社がジュピターとエクソライナーを開発する狙いは、国際宇宙ステーションへの物資補給だけではない。例えばNASAが今後実施を予定している、有人の小惑星や火星探査において、宇宙飛行士のための物資や、探査に使う機器などを運ぶ役目も果たせるとしている。ちなみに、NASAが有人深宇宙探査に使用する予定の宇宙船「オライオン」も、ロッキード・マーティン社が開発を手掛けている。

また、すでに軌道にある人工衛星を別の軌道に乗せたり、壊れた衛星を修理したり、さらに燃料を再補給したりといったミッションも考えられるとしている。また、スラスターは現在、化学推進エンジンを使うことになっているが、より燃費の良い電気推進エンジンを搭載する可能性もあるという。

こうした構想がどこまで実現するかはまだわからないが、非常に多くの可能性を持っていることは間違いない。

オライオン宇宙船と共に深宇宙へ向けて航行するジュピターとエクソライナー (C) Lockheed Martin

ロシアの宇宙タグボート「パローム」

いろいろと目新しさが目立つジュピターだが、こうした宇宙タグボート(あるいは軌道間輸送機とも呼ばれる)の構想は、実は以前から存在した。特にロシアでは、「パローム」と名付けられた、ジュピターによく似た機体の検討が行われていた。パロームとはフェリーや、渡し舟といった意味を持つ。

パロームはまず、ロケットで太陽電池やスラスターを持つモジュールだけを打ち上げ、軌道上で待機させる。続いて別のロケットでコンテナのみを打ち上げ、パロームとドッキングさせ、国際宇宙ステーションや、あるいは月などの別の目的地へと輸送する。別々に打ち上げることで、例えばコンテナの大きさが変わっても対応できるし、人工衛星や宇宙船、構造物などでも、ドッキングさえできるならパロームで輸送することが可能であり、またロシア以外から打ち上げられたコンテナでも対応可能といった利点を持つ。

この機体の概要は2004年に発表され、ロシアが運用する無人のプログレス補給船を代替することを目指していた。実際に開発も行われていたようだが、2010年ごろから情報が途絶え、現在はどういう状況にあるかは不明である。今後、ロシアは当面、プログレスを改良して引き続き使い続けるつもりのようであるため、開発は凍結、あるいは中止されたものと思われる。

パロームが実際に打ち上げられそうにないのは残念だが、ロッキード・マーティン社がジュピターの構想は作り上げたことは、パロームがやろうとしていたことが、少なくとも間違いではないことを証明しているのかもしれない。

パローム (C) RKK Energiya

参考

・ http://www.lockheedmartin.com/us/news/press-releases/2015/march/space-crs2-commercial.html
・ http://www.lockheedmartin.com/us/ssc/crs2.html
・ http://lockheedmartin.com/us/news/features/2015/crs2-deep-space-exploration.html
・ http://lockheedmartin.com/content/dam/lockheed/data/corporate/
documents/Jupiter%20CRS%20Factsheet%20Final.pdf
・ http://www.nasa.gov/press/2014/september/nasa-expands-commercial
-space-program-requests-proposals-for-second-round-of/
・ http://aviationweek.com/space/jupiter-space-tug-could-deliver-cargo-moon
・ http://www.russianspaceweb.com/parom.html