スマホゲームの課題はローンチ時の品質確保

KDDIは3月31日、コーポレート・ベンチャー・ファンドである「KDDI Open Innovation Fund」を通じて、スマートフォン向けゲームアプリの受託開発などを手がける「ソフトギア」に出資することを発表した。国内外のハードウェア、ソフトウェアベンチャーへの出資を加速するKDDIが新たに注目したソフトギアとはどのような会社なのか。出資の背景について、両社に話を聞いた。

KDDIがOpen Innovation Fundを通じて、スマホゲームのデバッグ事業を展開するソフトギアに出資(写真左からKDDI 新規ビジネス推進本部 アライアンス推進部 アライアンス推進5グループリーダーの千葉好信氏、KDDI 新規ビジネス推進本部 アライアンス推進部長の岩永充正氏、ソフトギア 代表取締役 CEOの青木健悟氏、ソフトギア 取締役 コンテンツ開発部 部長の北尾剛三氏)

KDDIは、「auスマートパス」を通じてスマホ向けにゲームアプリを配信している。個々のゲームアプリの開発は基本的に開発会社が行なうものの、ローンチ時のプロモーションなどでスケジュールを管理することもあるという。

そこで問題となっているのが、ゲームの品質であるとKDDIの千葉好信氏は語る。「最近のゲームはローンチぎりぎりまで機能を追加することも多い。スタートアップはもちろん、中堅企業であっても品質を確保する体制や時間がない」と実情を語る。

具体的には「多数のユーザーが接続してサーバーがダウンする、アイテムを不正に入手するアタックなどの障害がある。これによりゲームの運営に支障をきたし、初期ユーザーが離れると、最初に打ち出したプロモーションが無駄になる」(千葉氏)といった損害が発生しているという。

また、発生した問題を解決するにあたっても、「障害対応で開発者のモチベーションが下がり、燃え尽きてしまう。本来であれば、ゲームの魅力を高めるために時間を使ってもらいたい」と千葉氏。

そこでKDDIは、ゲームの完成前に品質を向上させる「デバッグ」について専門的なノウハウを持つ、ソフトギアに注目したという。

仕様書をもとにゲームをデバッグ、原因を解析

一般にゲームのデバッグ工程では、アルバイトスタッフなどが人海戦術でゲームをプレイし、発見したバグを開発チームに報告する、という手順で行われる。このデバッグ作業を請け負う会社も、すでに存在しているという。

これに対してソフトギア 代表取締役 CEOの青木健悟氏は、「現象を報告するだけのデバッグでは、スマホゲームにおいては非効率だ」と指摘。また、「サーバーサイドの知識がないデバッグ担当者では、原因がクライアント側とサーバー側のどちらにあるのか切り分けることができない」とも話す。

ソフトギアによるデバッグは、バグの原因を解析するところまで請け負うところが強みと語る、青木氏

デバッグ作業により発見されたバグに開発者が対応するにあたっても、「スマホゲームによっては、サーバー側のログは膨大になる。これを開発者に追わせるのは負担が大きすぎる」(青木氏)と指摘する。これに対してソフトギアは、バグの原因を示すログを特定することで、開発者の負担を軽減できるという。

デバッグ作業を請け負ったソフトギアは、ゲームの開発会社からゲームの仕様書とバイナリーファイルを受け取り、テストサーバーに接続してデバッグを行なう。「サーバー側のログが足りない部分については、開発会社に対してログを出すよう要求する」(青木氏)などの指示を加えつつ、デバッグを進めるとしている。

サーバーを介して複数のキャラクターが動き回る3Dゲームのような、複雑なゲームのデバッグも得意としているという

ソフトギアはこのデバッグサービスを2014年夏から提供。KDDIは、今回の出資に先立ってトライアルとしてデバッグを依頼し、その結果として「ソフトギアは、単なるバグ報告ではなく一歩進んだ解析ができる点を評価した」と千葉氏は話す。

ソフトギアはその背景について、「ゲーム向けのミドルウェアや通信ライブラリを提供しているため、豊富な開発経験がある」(青木氏)と説明する。

設計段階からの開発コンサルティングも視野に

ゲームの開発会社として、ソフトギアにローンチ前のゲームの仕様を開示することに抵抗はないのだろうか。青木氏は「コンテンツ本体やソースコードを、外部の企業に公開することに抵抗のある企業は多い」と、現状を認める一方で、その対策として「コンプライアンスという意味で、ゲーム開発の部門とデバッグ事業の部門を社内で線引きした」(同)と話す。

また、ゲームのバグは完成後に発見しても修正が難しい場合も少なくない。そこでソフトギアでは、より早いフェーズから参加することも検討しているという。

「しっかりしたデバッグを続けていくと、開発会社の信用を得て、次々と依頼を受ける傾向にある。実績のある通信ライブラリの提供や、設計段階からのコンサルティングなど、幅広いフェーズでお手伝いしていきたい」(青木氏)

KDDIでは、スマホゲーム全体の品質向上という視点に立っているという。「KDDI Open Innovation Fundは、必ずしもauスマートパスなど、特定の事業への展開を前提とした投資ではない」と、KDDI 新規ビジネス推進本部 アライアンス推進部長の岩永充正氏は語る。

ソフトギアのデバッグサービスを利用するアプリ開発会社が、iTunes App StoreやGoogle Playへのアプリ公開を目的としていても構わないとしており、もちろんauスマートパスなど、au独自のサービスにも積極的に活用していくとしている。

ゲームのデバッグを外注するコストについては、「従来のデバッグ業者と同じく、時間単価で請求する」(青木氏)。「デバッグはとにかく安く上げたい、という声が多い。しかしソフトギアのデバッグなら解析まで提供できる。トータルの開発コストを抑えるという視点で見てほしい」(同)と他社に対する優位性も口にしている。

スマートフォンゲーム市場は今後ますます伸長していく。任天堂の参入もあり、盛り上がりも更に増すことだろう