日産自動車(日産)の「新型スカイライン 乗らず嫌い試乗会」――。その模様を伝えるオフィシャルムービーが2015年2月24日、FacebookやYouTube上で公開され話題を呼んでいる。同プロジェクトは、新型スカイラインに否定的な「アンチユーザー」だけを集めて試乗会を催し、そこでのユーザー体験をオンラインで共有させるという試みだ。


その背景には、ソーシャルメディアマーケティングに対する日産ならではの考え方とアプローチがある。

性能と世評のギャップを埋めるために、リスクを取る

「新型スカイライン 乗らず嫌い試乗会」は、放送作家の鈴木おさむ氏が編集長を務める日産のソーシャルメディア・プロジェクト「にっちゃん」の一環として、2014年12月21日に実施されたものだ。日産の公式Facebookページで、新型スカイラインに対する「ネガティブ・コメント」を投稿する「アンチユーザー」を対象に企画された。

同社によれば、2014年2月に発売された新型スカイラインに対し、「価格が高い」や「スカイラインにハイブリッドは不要」など1000件を超えるネガティブ・コメントが寄せられたという。しかし、試乗会で新型スカイラインの性能をアンチユーザーらに体感してもらったところ、参加8組14名中9名は、新型スカイラインに対する見方・印象がネガティブからポジティブへ変容した。

また、日産では、試乗会の模様をまとめた動画を2015年2月24日から、オフィシャルFacebookページやYouTube上で公開し、「ユーザー体験の共有化」を図っている。この動画の再生回数は、3月25日時点で、10万3650回に達している。

日産自動車 新型スカイライン イメージ

乗らず嫌い試乗会は、予定調和型のマーケティング施策ではない。試乗を通じてアンチユーザーがどう反応するかは、不明であった。

言い換えれば、試乗会を経ても、新型スカイラインに対する参加者の意識(ネガティブ・マインド)が変化せず、「やはり新型はダメ」と評価されてしまう可能性もあったわけだ。仮にそうなったとすれば、「ネガティブ・コメントの正当性を増す」という負の効果しか得られず、最終的に「スカイライン」という日産にとっての重要なブランドに深手を負わせるリスクもあった。

日産自動車 マーケティング本部・販売促進部の冨井 祐樹氏

「ですから、企画を立てた私たちも内心はドキドキでした」と、日産自動車 マーケティング本部・販売促進部の冨井 祐樹氏は笑みを浮かべる。冨井氏は、日産におけるソーシャルメディア・マーケティングの担当者で、いわゆる「ソーシャル・チーム」の一員として、今回の試乗会を主導してきた。

「新型スカイラインの性能・仕上がりについては、開発サイドが絶対的な自信を持っていました。ですから、1000件のネガティブ・コメントを受けながらも、ソーシャル・チームには、実際に試乗してもらえば、新型スカイラインの魅力を理解してもらえるとの考えもあったわけです。そこで、アンチユーザーの試乗会を断行し、新型スカイラインに対する開発サイドの自信と、実際の世評とのギャップを埋めようと決意したのです」(冨井氏)


「新モデルに対して、1000件のネガティブ・コメントが寄せられること自体、スカイラインのブランド・パワーの大きさとファンの多さを物語るものです。ですから、ネガティブ・コメントの多さを『新型スカイラインの魅力を広く伝えるチャンス』ととらえ、この機を有効に使いたいとも考えたのです」(冨井氏)

「日産は『おカタイ会社』と思われがちですが、実は、一風変わった取り組みやチャレンジを面白がる風土があります。しかも、ユーザーからの意見や批判が直接聞ける機会は、開発サイドの技術者にとっても有意義なものです。そのため、今回の試乗会に対しても、社内の多方面からさまざまな協力が得られましたし、この試みをきっかけに、ソーシャル・チームの活動に対する技術者サイドの関心も改めて高まってきました」(冨井氏)

新型スカイライン 乗らず嫌い試乗会 当日の様子 資料 : 特設Webサイト ギャラリーより

こうして試乗会は実施され、その日のために日産のテストコース「日産GRANDRIVE(グランドライブ)」と新型スカイライン「350GT HYBRID Type SP」が用意された。また、当日の会場には、日産自動車の車両実験部テクニカルマイスター 加藤 博義氏や開発部門のトップも顔をそろえた。

新型スカイラインに対する開発者の自信と、世評のギャップを埋める目的で実施された「新型スカイライン 乗らず嫌い試乗会」。日産は、ネガティブ・コメントが寄せられたことをチャンスと捉え、より面白い企画でユーザーとコミュニケーションを図るという姿勢で、ソーシャルメディアを活用したキャンペーンに取り組んでいるのだ。

後半では、同社におけるソーシャルメディアマーケティングの役割と考え方に迫る。

【後半】日産的ソーシャル活用 - お客様の潜在意識に「日産 いいね」を

【参考】
日産自動車 公式Webサイト
日産自動車公式facebookページ
日産ソーシャルプロジェクト「にっちゃん」
新型スカイライン 乗らず嫌い試乗会 特設Webサイト
X-TRAIL × PIZZA-LA
30DAYS with DAYZ 特設Webサイト
究極のスマートBBQカープロジェクト 特設Webサイト