クラウド基盤導入で浮き彫りになったデータ連携の課題

測量/土木建設業向けCADシステムの設計・開発・販売を手掛けるアイサンテクノロジー(本社:名古屋市)。近年は測量ソフトウェア開発技術を応用し、高精度三次元計測事業も展開している。中でも注目されているのが、車載型の移動式高精度三次元計測システム「MMS(モービルマッピングシステム)」だ。MMSは、GPS、レーザースキャナ、カメラなどの機器を車両に搭載し、走行しながら道路の形状や標識、ガードレール、白線といった道路周辺の三次元位置情報を取得するシステムである。路面/トンネルの形状調査や災害状況調査をはじめ、自動走行運転支援、シミュレート用3D地図作成など、その応用範囲は幅広い。

アイサンテクノロジーで業務統括本部管理部部長代理を務める曽我泰典氏は、「われわれが培った高精度位置情報の解析技術は、次世代自動車の開発やカーナビなどへの活用が期待されており、ビジネスも加速しています。そのような状況において、営業活動の支援強化は急務でした」と語る。

アイサンテクノロジー 業務統括本部 管理部 部長代理の曽我泰典氏

北は岩手から南は宮崎まで、全国に10拠点を擁する同社は、各拠点の効率的な営業活動を支援するため、情報系アプリケーション基盤を構築する必要に迫られていた。また、ビジネスの拡大に伴い、社内のIT環境を迅速かつ柔軟に開発できるようにする必要もあった。曽我氏は「クラウドベースのアプリケーション基盤を導入し、同時に同基盤を自社開発の基幹システムである『ATERP』とデータ連携できるITシステムの構築を検討していた」と語る。

この課題を解決すべく同社では、情報系アプリケーション基盤としてサイボウズのkintoneを導入。営業部門向けを中心に100を超えるアプリを開発し、社内の情報共有にも務めた。しかし、ここでも新たな課題に直面する。それは「データ連携の手間」と「"脱エクセル"の難しさ」である。

「kintoneはクラウドベースのアプリを迅速に開発できます。しかし、従業員の多く-特に営業担当者-は、以前から利用しているエクセルのほうが使い慣れているので、なかなかアプリに入力してくれない。しばらくはシステム上でAPI(Application Programming Interface)を利用し、エクセルデータ(CSV)をkintoneのアプリに"流し込む実験"をしていました。しかし、これでは情報システム部門の負担が大きすぎます。そんな時、『DataSpider Servista』の存在を知ったんです」(曽我氏)

アプレッソが提供する「DataSpider Servista」は、データセンターや社内基幹システムに散在する情報を抽出し、必要なアプリケーションに最適な形で変換/加工するデータ連携ソフトウェアである。最終的に出力したいアダプタを通すことで、目的とするデータを取得できる。データ連携設定には、GUI(Graphical User Interface)開発環境が提供されており、連携ごとのプログラミング言語のコーディングやデータ仕様の解析といった専門知識がなくても、開発から環境設定、運用管理までを実行できる。

1カ月かかったアプリ開発が1日で完了

アイサンテクノロジー 情報システム室 課長の豊田聡氏

アイサンテクノロジーで情報システム室課長を務める豊田聡氏は、DataSpider Servistaの導入を決めた理由について、次のように説明する。

「kintone APIを利用すれば、基幹システムとkintoneとのデータ自動連携は可能です。しかし、それにはkintone APIの使い方をマスターし、さらに頻繁に行われるkintoneのアップデートにも対応なければならない。それには一定のコストとある程度の専門知識が要求される。しかし、DataSpider Servistaを利用すれば、こうした課題は解決される。とはいえ、最初にDataSpider Servistaのデモを見たときには『本当にこんな簡単に連携できるのか』と半信半疑でした(笑)」。

実際に導入してみると、コツを掴めば簡単に使いこなせることに驚いたという。また、kintoneのバージョンアップも、DataSpider Servistaを使えば利用者側はまったく気にすることがない。

アイサンテクノロジーでは現在、ASPサービスで利用している経費系システム「楽楽精算」とkintoneのデータ連携も、DataSpider Servistaで実現している。それまで交通費などの諸経費はCSVで出力し、手作業でkintoneの該当フィールドに入力していた。そのため、しばしば入力ミスが発生していたという。しかし、DataSpider Servistaの導入で、こうしたミスは一切なくなった。また、それまでkintoneと基幹システムの両方に登録しなければならなかったデータ入力作業も、1回で完結するようになった。豊田氏は、「こうしたシームレスなデータ連携を実現することで、情報システム部門の負担は大きく低減されました。例えば、基幹システムに格納されているデータをkintone上のアプリで利用できるようにするには、現在のヒューマンリソースだと2週間から1カ月かかります。しかし、DataSpider Servistaなら1日で作成できるのです」とそのメリットを強調する。

最大の効果は営業部員の生産性向上

DataSpider Servista導入のメリットを享受しているのは、情報システム部門だけではない。曽我氏は、「いちばんの効果は、従業員の事務負担が低減されたこと」であると語る。アイサンテクノロジーでは効率的な営業活動ができるよう、すべての従業員にモバイル・デバイスを配布し、kintone上のアプリから必要な情報にアクセスできる環境を構築している。従来であれば、紙のデータを持ち歩いたり、事務所に問い合わせてデータを参照したりしなければならなかったが、その手間は一切なくなったという。

さらに情報更新頻度も、数段に高くなった。例えば、売上伝票や顧客の保守情報などはエクセルで管理し、1カ月に1回の頻度でリストを更新していた。しかし現在では担当者がデータをメールで送信するだけで逐次更新され、関係者はkintoneのアプリで最新の情報を確認できる。豊田氏は、「営業担当者にとって、お客様の最新情報を把握することは重要です。さらに、DataSpider Servistaの導入で営業担当者は、こうした情報の更新をアプリに入力するのではなく、使い慣れたエクセルで実行できるようになりました。その効果は計り知れません」と力説する。

営業担当者にとって重要なのは、営業データの収集や加工ではなく、顧客と向き合い話を聞くことだ。例えば営業部長の本来の業務は、各担当者から上がってきたデータを鳥瞰的に見て次の戦略を立て、陣頭指揮を執ることである。しかし実際は、データの集計や加工に時間を取られ、資料作成と事務作業が主な業務となってしまっている。曽我氏は、「こうした業務に時間を割かれていては、ビジネスは加速しません。DataSpider Servistaであれば、各営業部員が(あらかじめ決めたフォーマット通りに)メールで送ってきたデータを集計したエクセルで見られるように加工してくれる。これによって営業部長は、本来の仕事に集中できるのです」と語る。

アイサンテクノロジーのシステム構成図。DataSpider Servistaがオンプレミスの基幹・業務システムとkintoneとの「データ連携ハブ」の役割を担っている

アイサンテクノロジーでは今後、DataSpider ServistaをBIツールと組み合わせて活用することも視野に入れているという。

「DataSpider Servistaで複数のデータをシームレスに連携させ、BIツールで分析することも考えていますが、まだそこまで使いこなせていません(笑)。将来的には、各営業部員から上がってきたデータを外部データなどと組み合わせて分析し、次の営業戦略の指針とするといった活用も考えています」(豊田氏)