エボラ出血熱などウイルス性出血熱はこれまで感染発症モデルの実験動物がなく、発症の仕組みの研究が難しかった。その状況を変えるようなマウスが誕生した。アフリカ南部のザンビアのコウモリから新たに発見したナイロウイルスを接種して、ヒトの出血熱感染症に似た症状のマウスを開発することに、北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターの石井秋宏(いしい あきひろ)助教らが初めて成功した。出血熱研究に役立つマウスモデルとして注目される。ザンビア大学とアイルランド国立大学ダブリン校との共同研究で、12月2日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。
出血熱ウイルスなどの病原体の多くは、自然宿主である野生動物からヒトへと感染する人獣共通感染症である。アフリカには、コウモリに潜んでいると考えられるエボラウイルス、げっ歯類に属するマストミスが保有するラッサウイルス、野生動物からダニによって媒介されるクリミア・コンゴ出血熱ウイルスなど、多くの出血熱ウイルスが存在している。西アフリカで2013年末から始まったエボラ出血熱は感染が拡大し、国際社会への脅威となっている。ウイルス性出血熱の治療・予防法の開発は人類的な課題である。
研究グループは2008年に、ザンビア大学獣医学部に設置した北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターザンビア拠点を活用して、病原体の自然宿主として重要な野生コウモリを採取し、保有しているウイルスを次世代シーケンス技術で網羅的に探索した。この解析から新規のナイロウイルス属ウイルスを発見し、レオパーズヒル(Leopards Hill)ウイルスと命名した。遺伝子を解析して、ほかのウイルスとの系統関係を調べた。ヒト出血熱ウイルスのクリミア・コンゴ出血熱ウイルスや、ウシ・ヒツジなどに出血熱を起こすナイロビヒツジ病などのウイルスと近縁なことがわかった。
この新規ウイルスを培養細胞で単離し、マウスに接種したところ、致死性の感染症を引き起こし、白血球と血小板の減少、肝・腎障害、腸管出血などの症状が確認された。これらの症状は、クリミア・コンゴ出血熱ウイルスによるヒト出血熱の症状とよく似ていた。クリミア・コンゴ出血熱、エボラ、ラッサなど重要な出血熱ウイルスは、免疫力のある正常なマウスで発症せず、適切なモデル動物がなかった。しかし、レオパーズヒルウイルスの発見で、免機機能が正常なマウスで出血熱様症状を含む完全な感染・発症モデルが構築できた。このウイルスによるヒト感染症はこれまでに報告されていないことから、実験的に安全で取り扱いやすいという。
石井秋宏助教は「このマウスモデルを使えば、出血熱ウイルスの動物体内での動態や動物の防御反応などがより正確に解析できる。治療法がなく、重症化すれば、体力任せという出血熱の現状を何とか打破したい。マウスモデルは、出血熱の発症の仕組みの解明や、その治療法や予防法の開発に貢献するだろう」と期待している。