PhotoshopやIllustratorなど、クリエイターには欠かせないアプリケーションを提供しているアドビ システムズが、満を持してリリースした"ハードウェア"であるiPad対応デジタルペン&定規「Adobe Ink & Slide」。デジタルペン単体ではなく、「デジタル定規」という新機軸のデバイスとセットで用いることにより、「iPad上で"定規"を使って直線を引く」という懐かしくも新鮮な体験を可能にしている。

「Adobe Ink & Slide」パッケージ

同製品に対応した描画アプリは複数あるが、直線を描くという機能を存分に使うには、製図などを想定したアプリ「Illustrator Line」が適している。今回は、「Adobe Ink & Slide」と「Illustrator Line」を組み合わせてクリエイターに使ってもらう中で発見された、同製品を"仕事"で使うケースについてお届けする。

クリエイティブ心をくすぐるパッケージ

マイナビニュースでは、国内発売に先駆けた製品担当者インタビュータッチアンドトライイベントのレポートなどを掲載してきたが、実機に触れる機会はまだ多いとは言えない現状がある。そのため、まだ実際にこのハードウェアに触れたことがない、というクリエイターもいるかもしれない。

以前、「クリエイターのかばんと"中身"、見せてください!」というシリーズ記事にて取材に応じてくれたエディトリアル/グラフィック・デザイナーのSさんも、そんなクリエイターのひとり。「Adobe Ink & Slide」について聞いてみたところ、InDesignやPhotoshop、Illustratorといったアドビ製品は毎日必ず業務で使うものの、同製品にはまだ触れたことがないという。そこで今回、「Ink & Slide」初体験のSさんに、タッチアンドトライを行ってもらった。

よく見ると中央に透明なインクでCreative Cloudのマークが描かれている

受け皿に傾斜をつけたデザインで、本体が取り出しやすくなっている

画家のパウル・クレーが「描くこと」について語った言葉が記されたプレートも

まずSさんが着目したのは、パッケージのできばえ。製品写真が印刷されたスリーブを外すと、透明なインクで立体的にCreative Cloudのマークが控えめにあしらわれている点に注目していて、その細やかな仕様には「アドビらしいデザイン」と一言。本体を収めているプレートも傾斜がつけられ、スムーズに出し入れができるようになっていることに対して、「ユーザーへのデザイン面からの配慮は、実務にあたっているデザイナーにとっても好ましく見えます」と語った。

充電はペンケースのキャップにデジタルペン(Ink)の後端をマグネットでくっつけて行う。充電中はLEDが光り、どことなく未来的な雰囲気にSさんも興味を示していた

「Ink & Slide」を"実務"で使うシーンを考える

Sさんは普段、雑誌や企業広報誌などのエディトリアルデザインを手がけている。そのため、iPad対応ペンのレビューに多く見られるイラスト描画による使用感ではなく、何よりもデジタル定規「Slide」に興味を示していた。というのも、Sさんにとって、定規は実務を行う上で手放せないツールだからだ。ページレイアウトのラフを引く時には必ず定規を用いるため、直線を引くという行為が日常の仕事に根付いているという。

それから、Sさんは「Illustrator Line」を立ち上げ、右手にデジタルペン「Ink」、左手にデジタル定規「Slide」を持ち、まずはSlideで直線を何度か描いた。それから、Slideに搭載されているボタンを押すことで、直線のガイドが円や三角形のものに切り替わる動作を試すと、「スムーズに切り替えられて使いやすいですね」とコメントした。

「Ink & Slide」初体験のSさんが特に注目したのは、デジタル定規「Slide」

その後、線や図形をいったんすべて消してしまうと、Sさんは直線を引いて画面中央に長方形を描き、何か細かく書き込み始めた。聞くと、これは仮想のページレイアウトのラフだという。普段はノートに手書きでラフを描いて、その後InDesignで実際のレイアウトなどを決めて行くということで、最初のラフと実際の作業との間には、デジタルとアナログの壁ができているそうだ。

最後に、今回のタッチアンドトライの感想を聞いたところ、仮想のラフをある程度描き込み終えたSさんは、「もしもプロジェクトに参加しているメンバー全員にiPadとこのデバイスが支給されたら、Creative Cloud経由でラフのデータを共有して、遠隔地にいる人との確認作業が可能になるかもしれません」と、デジタルならではの利便性に言及。続けて、「Illustratorと連携できるのも便利そうですが、個人的にはInDesignと連携するアプリが出てきたらかなり嬉しいですし、業務のフローに組み込めて便利そうです」と、ラフの「デジタル化」と、アドビがアプリケーションやサービスをクラウド化したことによって可能になったシームレスな「共有」に期待をこめていた。

業務で描くページレイアウトのラフを想定した使い心地を検証するSさん。定規があることによって、アナログに近い感覚でデジタルデータのラフを起こすことができる

ちなみに、アドビの技術をアプリに組み込むことを可能にする「Creative SDK」の配布によって、今後続々と「Ink & Slide」に対応したサードパーティアプリが登場することが予想される。その中に、Sさんが語った「InDesign連携のモバイルアプリ」が登場することもあり得るかもしれない。

デジタルペンによる描画と言えば「イラスト」というイメージが強いが、エディトリアルデザインをはじめとしたその他の分野でも、このツールが生かされるようなアプリが登場することを期待したい。