シスコシステムズは10月21日、同社の緊急・災害医療分野と高齢者医療への取り組みを説明した。

シスコシステムズ 公共、医療担当 シニア ソリューションズ アーキテクト 兼務 ビジネス デベロップメント マネージャー 営業 バーティカル ソリューション、セールス アーキテクト 岩丸宏明氏

シスコシステムズ 公共、医療担当 シニア ソリューションズ アーキテクト 兼務 ビジネス デベロップメント マネージャー 営業 バーティカル ソリューション、セールス アーキテクト 岩丸宏明氏は、医療分野について「病院内の管理事務システムは、ITにより大きく変革しており、コラボレーション分野が注目されている。また、物と物、物と人をつなげる分野も進化している」と述べ、最近のキーワードとして、ロケーション、仮想化、コラボレーション、MtoMを挙げた。

最近のキーワード

ゲストスピーカーとして参加した国立病院機構 災害医療センター 臨床研究部/DMAT事務局 高橋礼子氏は、災害時の医療体制について説明。

国立病院機構 災害医療センター 臨床研究部/DMAT事務局 高橋礼子氏

高橋氏が事務局をつとめるDMATは、「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」と定義されており、災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team)の頭文字をとって略してDMATと呼ばれる。DMATは、医師、看護師、業務調整員(医師・看護師以外の医療職及び事務職員)で構成され、大規模災害や多傷病者が発生した事故などの現場に、急性期(おおむね48時間以内)に活動できる機動性を持った、専門的な訓練を受けた医療チームだ。(DMATのサイトからの引用)。

高橋氏はDMATが作られた背景を、「阪神・淡路大震災では初期医療体制の遅れがあり、教訓として災害医療を担う病院がなかった、急性期の被災地における医療が欠落していた、重症患者の広域搬送が行われなかった、医療情報が全く伝達されなかったという教訓があった」と説明。

阪神・淡路大震災からの教訓

そして、同氏は災害時の医療対応で重要な項目として、情報伝達を挙げた。

阪神・淡路大震災では、神戸大学付属病院で地震発生当日に在籍した医師は112名で、366人の患者が訪れたが、すぐ近くのK病院では、医師が7人にもかかわらず、1000人以上の患者が訪れたという。

高橋氏は、「情報共有ができていれば、K病院の患者を神戸大学付属病院に搬送することもできたし、逆に、神戸大学付属病院の医師をK病院に派遣することができた」と、情報共有の重要性を指摘。そして、日頃は独立している地域の医療機関を情報共有により組織化することが重要だと強調した。

そのための情報共有ツールとして全国の自治体で利用されているのが、広域災害救急医療情報システム「EMIS」だ。

広域災害救急医療情報システム「EMIS」

「EMIS」のモニターでの見え方

しかし、東日本大震災では、通常回線がつながらない、衛星携帯電話がないなど、通信手段が途絶えたため、EMISが使えないという新たな課題が発生した。そのため、衛星電話によるデータ通信の確保やJAXA・民間事業者(IPSTAR等)の活用や連携が重要になっているという。

そこで、シスコでは衛星インターネットを活用したコミュニケーション基盤サービス「Cisco ECK(Cisco Emergency Communication Kit)」を提供し、平成24年からは総合防災訓練に参加している。Cisco ECKには、衛星アンテナ1つ、無線LANアクセスポイントが2台、スイッチが1台、IP電話が2台がセットで提供される。電源さえ確保できれば、これを利用して国内どこからもIP通信が可能だという。

「Cisco ECK(Cisco Emergency Communication Kit)」

平成24年の総合防災訓練

そして、もう一方の高齢者医療分野では、シスコは産学官連携のプロジェクト「COLTEM」で行われる「遠隔技術を用いた能力評価の開発」の実証実験チームに参加し、ビデオ会議システム「Cisco TelePresence」を提供している。

京都府立医大大学院医学研究科 講師 成本迅氏

この実証実験は、認知症を発症した高齢者の意志決定能力を判断するためのもので、正しい意志決定能力のない高齢者に金融商品を販売すると、あとでトラブルになるため、金融機関からのニーズが高いという。

COLTEMの研究リーダーをつとめる京都府立医大大学院医学研究科 講師 成本迅氏によれば、こういった能力を判定するには、専門性の高い能力が必要で、判断できる人が少ないため、ビデオ会議による遠隔診断が有効なのだという。

遠隔技術のメリット

また、ビデオ会議システムは、高齢者の見守りサービスにおいても重要だという。

岩丸氏はこの領域での課題について、相談者の利便性の向上、サービスの質の向上、セキュリティ対策、最適な端末の検討などを挙げ、今後取り組んでいくことを表明した。