日本中から1500名以上のMATLAB/Simulinkユーザーが集うユーザーカンファレンス「MATLAB EXPO」。昨年と同様、今年も10月29日に東京・台場の「ホテル グランパシフィック LE DAIBA」にて開催される。9月に掲載した記事では、主催のMathWorks Japanにて、同イベントテーマの選定などを先頭になって指揮してきたキーマンである同社インダストリーマーケティング部マネージャーの阿部悟氏に話を聞いたが、本稿では開催まであと少しとなったMATLAB EXPO 2014の個別セッションについて、「MATLAB/Simulinkの適用分野の拡大」というイベント全体のキーワードとともに紹介していきたい。

7つのトラックから解説される、MATLAB/Simulink適用分野の拡がり

午前中の基調講演に続き、同日午後からのテクニカルな話題が提供される個別セッションは「基礎/入門」、「データアナリティクス」、「信号・画像処理のアルゴリズム開発」、「信号処理・通信のシステム開発」、「メディカル」、「制御設計、MBD実践」、「パワーエレクトロニクス/エネルギーマネジメントシステム(EMS)」の7つに分類されている。

13時より開催される個別セッションは、7つのトラックから構成される

従来のMATLAB EXPOから引き続き設けられている入門者向けの「基礎/入門」は、昨年も好評だった人気の高いトラックとなる。また、制御のテーマについては本年、モデルベースデザイン実装をテーマとした「制御設計、MBD実践」と、エネルギー制御をテーマとした「パワーエレクトロニクス/エネルギーマネジメントシステム(EMS)」の2つのトラックで構成されている。機械設計などに携わる人は要注目のトラックとなるだろう。こうした分野は、従来のMATLAB EXPOでも取り上げられていた人気のある話題なので、参加したことがある人なら、どういうセッションかイメージしやすいと思う。

制御系以外でも、幅広い分野での活用を示唆する1日

さて、MATLAB/Simulinkというと、制御系での活用というイメージが特に日本では強い。しかし前回の記事でも触れたとおり、世界的な潮流としてそうした制御分野以外での活用が進んでいる。今年のMATLAB EXPO 2014は、そうした世界的な流れを受ける形となっており、イベント全体のキーワード「MATLAB/Simulinkの適用分野の拡大」にも表れている。

たとえば「信号処理・画像処理のアルゴリズム開発」「信号処理・通信のシステム開発」の両トラックは、昨年から新設されたトラックを本年も踏襲し、引き続き話題のキーワードとなっている「コンピュータビジョン」に対してMATLABでどういったことができるのかを示す講演、基礎・活用の両観点を交えた講演が用意されている「信号処理・画像処理のアルゴリズム開発」や、通信分野のエンジニアなどに向けて通信ソリューションを実現するための開発についての講演がそろう「信号処理・通信のシステム開発」では、その技術の実践者による講演もあり、制御系以外の分野での活用の拡がりを感じさせるものになるだろう。

今年の注目となる「データアナリティクス」「メディカル」分野での活用

「データアナリティクス」「メディカル」分野の各セッションタイトル

さらに、「データアナリティクス」では、こちらも話題のキーワードの1つである「ビッグデータ」に合わせたトピックスが提供される。データアナリティクスの現場で不可欠となるデータの事前準備(事前処理)、統計解析・機械学習の要素について、MATLABを用いる事でどのようなアプローチが可能になるのか、またその技術のエンタープライズ・アプリケーション開発環境としての実装例など、データ分析担当者のみでなく開発者や意思決定者にも実用的となる話題が提供される予定だ。

もう少し具体的にみていくと、たとえば統計解析、最適化については、株式会社インテージ MCA事業本部のシニアデータサイエンティスト明峯恭彦氏がスピーカーとして登壇するセッションも用意されている。同社の価格戦略におけるデータ分析概要と、最適化工程においてどのようにMATLABを組込んでいるかについて同セッションでは紹介される予定だ。また、「エンタープライズ向けアプリケーション開発の例」では、位置情報解析を例とし、エンタープライズに向けた(MATLABを組み込んでの)ビッグデータ解析方法について提示される。いずれも「適用分野の拡大」というキーワードを象徴する注目のセッションといえるだろう。

加えて「メディカル」では、創薬や医療機器開発といった医療分野におけるMATLAB活用の話題が提供される。メディカルと聞くと、産業機器の延長線上というイメージが想起されるかもしれないが、冒頭の講演では田辺三菱製薬株式会社の齊藤隆太氏による講演が予定されており、同社が創薬開発のワークフローの中で、どういったところにMATLABを活用しているのか、といった話が紹介される予定だ。無数にある材料や素材データをどのように組み合わせて新たな物質開発を行うか、といった講演は、サイエンス分野の人にも参考になるだろう。

もちろん、サイエンス分野のみでなく、医療機器開発についても、グローバルでの最新トレンドやモデルベースデザイン、制御システムといったテーマから紹介する講演が複数予定されている。モデルベースデザインと制御システム設計に興味が高いのであれば、「メディカル」の最終講演すぐ後の時間に「制御設計、MBD実装」トラックで用意されている、機能安全規格へのMBD活用にフォーカスをあてた講演にも注目するとよいだろう。

例年に増して、MATLAB/Simulinkが幅広い分野で活用されることが示唆されるであろうMATLAB EXPO 2014。参加登録はすでに開始しており、無料で参加が可能だ。各セッションごとに定員が設定されており、人気のあるセッションはすぐに埋まってしまう可能性が高いという。MathWorksのエンジニアが話す講演以外にもユーザーや大学の方による活用事例といった話も多く用意されており、自分の対象とする分野の企業がどのような形で活用しているのか、といったことを知ることができるのは大きな糧になるだろう。なお、当日の会場内では、MATLAB/Simulinkのパートナー各社によるデモ展示コーナーも充実しているので、課題解決のソリューションを見つけることが出来るかもしれない。

開催まで残りわずかだが、参加してみようと思った方は、興味がわいたセッションに空きがあるかをタイムテーブルで確認し、登録してみると良いだろう。

MATLAB EXPO 2014のタイムテーブル。各セッションごとに空きがあればチェックボックスにチェックを入れて来場登録をすれば、参加申し込みとなる