マイクロアドは9月9日、新たなSSP(Supply Side Platform)として「MicroAd COMPASS」を公開した。同社がこれまで提供してきた「MicroAd AdFunnel」の後継となるSSPとして、スマートフォンメディアへの対応強化や純広告も含めたオークションによる収益向上といった機能が追加されている。
サイバーエージェント内から誕生したマイクロアドは、リターゲティング広告を主力に規模を拡大。広告主側のDSP(Demand Side Platform)として「MicroAd BLADE」を、そしてSSPとしては前述の「MicroAd AdFunnel」を提供してきた。特にMicroAd BLADEは、国内7000社を超える利用者や月間700億インプレッションもの枠を確保するなど、国内最大規模のDSPとなっている。
マイクロアド SSP事業部 部長 |
このような中で、提供するSSPの名称を変更して公開したMicroAd COMPASS。その背景にはなにがあるのだろうか。同社 SSP事業部 部長 立石 誠氏に話を訊いた。
立石氏はまず「MicroAd COMPASSは、文字通り方位磁針や羅針盤といった意味から名づけています。メディアの広告枠の管理は、アドサーバに純広告を設定し、アドネットワークを入れ、SSPのタグもアドサーバでといった現状があります。そのような中で、本当の意味で一元管理できるプラットフォームとして提供したいという思いがあり、大海原で方向性を示すものとして"COMPASS"としました」と提供の狙いを語る。
では、なぜシステムを新たにしてまでMicroAd COMPASSとしてリニューアルが必要だったのだろうか。
その背景には「MicroAd AdFunnelはアドサーバの技術をベースに、自前でRTB機能を追加してきましたが、もともとアドサーバの設計であったため、メディアの収益を上げていくというSSPの目指すことに対して、どうしても壁がありました」といった事情があるという。
「ベースとなるアドサーバの配信ロジックに手を加えることがなかなか難しいことや、MicroAd BLADEと一体としてシステムに載せた方が効率がよいこともあり、準備に2年をかけて自社開発で行ってきました」(立石氏)
このような社内事情に加え、メディアに対しては「メディアに訪れる全ユーザを対象にしたオークションという本当の意味での最適化を提供したいと考えています。多くのメディアが行っているアドサーバに各社のタグを入れてというやり方では、収益化という面からは最適化されているとは言えません」として、「アドサーバとSSPは別のものという概念を変えたいという思いがあります」と続ける。
概念を変え、アドサーバとSSPを"ひとつのもの"として啓蒙を進めていくとする立石氏。それには、提供するSSPが、SSPとしての機能は当然であることに加え、メディアがアドサーバに求める適切な純広告管理機能を備えている必要がある。事故なく広告を期限内に配信することを求められるアドサーバと、収益最大化を図るイールドマネジメントツールとしてのSSP。両者はもともと向いている方向に違いがあるが、これらを一元管理するSSPとしてMicroAd COMPASSを提供することで、メディアの課題を解決しようというわけだ。
「このようなことを実現するための機能をMicroAd COMPASSに盛り込んでいます。一元管理することで、メディアの収益化の手伝いができると確信しています」「自社でDSPを持っていることが最大の強みです。ここで蓄積した知見をもとに配信最適化なども行っています」(いずれも立石氏)。
この課題の認識はマイクロアドだけのものではない。5月に日本での提供を開始したSSP「PubMatic」の国内独占提供を行うソネット・メディア・ネットワークス 代表取締役社長の地引氏も「アドサーバにいくつものSSPが入ってチェーン化しているような状況を解決したいと思っています。PubMaticはひとつのソリューションですべてを解決できます」と同様の認識を示していた。
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MicroAd COMPASSの強化ポイントには、アドサーバ機能の強化や、DSPから提供されるRTB広告に純広告も加えたフルフラットオークション機能、ファンコミュニケーションズが提供するスマホ向けのアドネットワーク「nend」との在庫連携などが挙げられる。
アドサーバ機能はMicroAd AdFunnelでも提供していたが、「時間帯配信など様々な販売パターンがあって対応が難しかった部分がありました」(立石氏)という。MicroAd COMPASSはPCメディアやスマートフォンメディアに対応。配信期間の設定や、配信数の上限調整、在庫予測機能など既存のアドサーバ機能に対応し、無料で提供する。
さらにこのアドサーバ機能を利用することで、技術的につながりかたの違う、DSPから提供されるRTB広告・純広告・アドネットワークの3者を1インプレッションごとにひとつのオークションにかけるフルフラットオークションが利用でき、これがMicroAd COMPASSの大きな特徴となっている。
一般的に広告枠の運用では、純広告の消化を優先し、残りの部分をアドネットワークやRTB広告に回すようにしているメディアが多いが、「フルフラットオークションでは純広告も含めたオークションを行うことでより収益の高いRTB広告などを取りこぼさずに済み、また純広告に関しては期間内に配信数をきちんと終わらせるような配信ロジックを別に処理しています。これらがやりとりすることで3者の配信を最適化することができます」と立石氏は説明する。
純広告が単価の高いRTB広告の配信を邪魔することなく、また逆にRTB広告が純広告のインプレッションにも影響しないようになっており、その中でオークションを行うことになる。実際には、単価の高い純広告が多くの場合で勝者となることが予想されるが、ビッドを細かく1インプレッションごとに行うことで、数は多くないものの純広告よりも高い値付のRTB広告を取りこぼさずにすむことになる。「このような配信ロジックとシステムの構成で特許を出願中です」として、「機会損失を防ぐことで、この部分がそのままメディアにとっての収益アップにつながります」立石氏は語る。
また、MicroAd COMPASSが注力しているのはスマートフォンメディアへの対応だ。ここ数年の端末の普及にあわせて、スマートフォンメディアのPVも急速に伸びている。スマートフォンメディアでの広告枠ではアドネットワークが主流となっているが、2014年から2015年にかけて、スマートフォンメディアでのRTB広告市場が伸びると見られている。マイクロアドが1月に発表した調査によると、2014年のRTBによるディスプレイ広告市場規模はPCの409億円に対して、スマホが91億円。これが2017年には逆転し、PCが505億円、スマホが518億円に達するという。
MicroAd COMPASSでは、このスマートフォンメディアのRTB取引への対応強化も図っている。「スマホはまだアドネットワークが中心だが、近々にはRTBが追い抜くのではないかと考えています。RTB取引を含んだMicroAd COMPASSに変更するだけでも、収益向上に効果があるはずです」と立石氏も自信を見せる。
MicroAd AdFunnelの採用社数は現在大手メディアを中心に法人700社となっている。直近では、PCで約250億インプレッション、スマートフォンで約150億インプレッションの規模となっており、同社ではこれを年内に、AdFunnelとCOMPASSで500億インプレッションを目指すとする。半年程度でMicroAd COMPASSへの乗換を完了させたい同社としては、特にスマートフォンメディアでの採用メリットを前面に出して行く考えだ。
「広告枠の一元管理をした方がよいと分かっていながら、なかなか踏みこめなかったことに今回踏み出したと考えています。我々もRTBの運用でこのようなやり方を取ってきた部分もありますが、それを一度壊して、新たな技術でメディアに対して運用の仕方を提案していきたい」(立石氏)
DSPやSSP、RTBといったツールが登場し、メディアにとってはより収益性の高い広告掲載の機会提供を、広告主にとってはターゲットをしぼってよりROIの高いキャンペーンが行えるといった下地ができあがりつつある。一方で運用するメディアにとっては、まだまだ課題が多く残っている。理想はわかるが、実際の現場では……というのが実情に近いかもしれない。
新たなSSPとしてMicroAd COMPASSを投入したマイクロアド。COMPASSがその現場での課題を解決できるかが注目される。