コミックマーケット86(コミケ86)が東京・有明の東京ビッグサイトで行なわれている(17日まで)。コミケ85では、来場者数が52万人を記録するなど、一大イベントと化しているが、こうしたイベントでは携帯キャリア各社が増大するトラフィック対策を積極的に行なっている。今回、ソフトバンクとKDDIの対策をうかがった。

ドコモと角川が14日に発表したコミケ85の来場者分析によると、東京ビッグサイト周辺が東京都内で最も人口過密状態に陥っていたとのことで、新宿の3倍もの人の数がいたことになるという。

この来場者分析は、NTTドコモユーザーの位置情報を集計・分析しており、そこから発生する高トラフィックがどれほどのものになるのかも想像に難くない。基本的に、こうした大規模イベント会場周辺では、イベント時に増大するトラフィック対策として、一般的な街よりも基地局や中継局が多く設置されているが、とりわけコミケでは更なる対策が必要となる。

"気球"を飛ばしたソフトバンク

そうした対策は通常、災害時に出動する車載型基地局を展開する。実際に、各社がコミケ対策で出動させているのも、全国各地に点在する車両を東京に集結させているのだが、ソフトバンクは「ソフトバンク、気球型のWi-Fiスポットを開発 - コミケ86から配備」でも紹介したように、気球型のWi-Fiスポットを初めてイベント対策に投入した。

以前から災害対策用に「気球無線中継システム」を制作していたが、今回は実戦投入でイベント用に気球を改良。技術的な話を、ソフトバンク モバイル 研究本部 無線ソリューション研究部 無線応用研究課の課長で、理学博士の中島 潤一氏に話を伺った。

イベント用気球は20~30mの高さまで上がり、Wi-Fi電波が安定的に吹く範囲は周囲300mに達する。気球無線中継システムでは、最高100mまで上がり、周囲3~5kmまで3G電波が吹いていたが、規模を縮小したのには理由がある。

「イベントでは、広範囲にエリアをカバーする必要がない。そこで、気球を小さくして上げられるようにした。目標は"3・3・3"。『30分』で『3人』の人員、『30m』の高さに気球を上げることを目標にしたわけです」(中島氏)

30mの高さであっても、既存の車載型基地局のポールアンテナより高い位置にアンテナを配すことができ、「従来は木立があって届かないケースがありましたが、気球であればその状況を克服できます」(中島氏)とのことだ。

気球を打ち上げることの最大の問題点は、当然と言うべきか「風」だ。

とはいいつつも、気球は耐風性能を持たせており、風速10~15mであれば耐えられるという。実際に、コミケ初日にも、風速10mの中飛ばしていたのだが、途中で15m近くになり、トラックにしまい込んだ。

朝は飛ばしていたものの、メディアが入場可能になった時間帯には強風のためトラックに戻していた(画像はソフトバンク提供)

「本来であれば、風速10m~15m程度でも耐えられるように作ってあります。ただ、コミケ会場では、間近に人が多く居たほか、車も止めてあったため、安全上の観点から、降ろしました」(中島氏)

災害用気球との違いは大きさや、その造りにある。例えば、災害用は二重膜で、イベント用は一重膜。この違いは、どれほどの期間気球を打ち上げるかにかかっており、災害用は約1カ月間打ち上げたまま運用することができる。イベント用では、長くても数日しか利用しないため、重量などとのバランスから一重膜にしたという。

「気球は災害用が42立方メートルで、ヘリウムガスを入れることで42kgのものを持ち上げられる力になります。一方で、イベント用気球は13立方メートルで13kg。気球自身の重さもあるため、その分は差し引きしますが、LTEの無線機/アンテナが3~5kg、Wi-Fiアクセスポイントが1kg程度で、それぞれの重量を支えられる計算になります」(中島氏)

「風」は打ち上げている最中だけの問題ではない。

「この気球は、5、6mの風でも組み立てることができないのです」(中島氏)

災害用気球システムなどは、一般車両にヘリウムガスボンベや気球を積んで運んでいたが、屋外で組み立てる際に強烈な横風が吹くと煽られて気球を満足に組み立てられることができなかった。

そこでソフトバンクは、2トントラックを気球専用車両に改造。音楽イベントなどで用いられるトラックのように、壁面が自由に動かせるトラックを新造したという。

「風があると膨らまなくなるんです。おばQみたいに風船が半分膨らむ感じで、ばたばたはためいてしまう。そこで、トラック上で壁を可変式にして風船をぐるっと取り囲めるようにしており、安全に作業ができます」(中島氏)

この構造により、コミケ初日の風速10mの環境下でも作業が完了できた。また、副次効果で、トラックの広いスペースを活かして、気球を半分程度膨らませておき「一緒に運搬するヘリウムガスボンベも減らせられた」(中島氏)としている。

気球を打ち上げるメリットは何か最後に尋ねた。

「単に基地局上げるよりも気球が上がる方がユーザーにも楽しんでもらえるのではないか。ランドマーク的存在として、今日(コミケ初日)もTwitterで上げてくださった方々がいた。ほかのイベント会場でも要望があれば、ぜひ持って行きたいですね」(中島氏)

国内キャリア唯一の「CA」で攻めるKDDI

一方、コミケで本来の事業とは別の側面で話題を振りまくKDDI。今回も弱虫ペダルとのコラボレーションを発表し、コミケ85の進撃の巨人同様にKDDI社員がコスプレを行なっていた。

今年もノリノリなKDDI社員。コミケ85の調査兵団と同じ社員がコスプレを行なっていたが、個人的な趣味も兼ねているのだろうか

コミケ85から進化した点は「キャリアアグリゲーション対応」と「対応周波数帯の増加」だ。

キャリアアグリゲーションは、5月よりKDDIがサービスを開始したLTEの高速化技術。LTE-Advancedの一要素で、ほかにNTTドコモがサービスを開始したVoLTEなども存在する。

高速化技術とされるキャリアアグリゲーションは、異なる周波数帯を同時に利用して通信するもので、KDDIは800MHz帯と2.1GHz帯(ともに10MHz幅)を同時に利用することで、最大150Mbpsの速度を実現する。

しかし、KDDIによると、キャリアアグリゲーションのメリットは高速化以外にあるという。

「キャリアアグリゲーションは、速いだけではなく、安定していることも大きな特徴の一つ。安定して通信できるようにすることが、イベント会場では求められる。キャリアアグリゲーション技術は、現時点で当社だけが活用しており、お客様に安定して通信を利用していただける環境をしっかり用意できると考えています」(KDDI広報部・松田氏)

また、同社は、「人間Wi-Fi」と呼ばれる、移動するWi-Fiスポット部隊も用意している。彼らのアクセスポイントのバックホール回線はWiMAXやLTEなのだが、「一部のアクセスポイントのバックホール回線もキャリアアグリゲーション対応子機で運用しています」(松田氏)とのこと。こうした移動Wi-Fiスポットは、実際に利用してみると、速度が安定しないことが多いと言うが「こちらもキャリアアグリゲーション対応で、安定します」(松田氏)としていた。

Wi-Fiアクセスポイントをカバンに入れて運んでいる

従来の800MHz帯と2.1GHz帯に加えて、新たに1.5GHz帯にも対応した

写真撮影に多くのお客さんが並んでいた

NTTドコモやUQも

それ以外にも、NTTドコモやUQコミュニケーションズが、車載型基地局を展開していた。

NTTドコモもラッピング風にdアニメストアのタイアップを掲げていた(アニメはRAILWARS!)

ドコモも人間のWi-Fi部隊を投入

UQはいたって普通だった