NECは6月2日、通信事業者の無線基地局向けに、消費電力を従来比で最大約30%削減しつつ、広帯域での柔軟な周波数対応も実現したデジタル無線送信システムを開発したと発表した。

近年、無線の通信トラフィックは、スマホやSNSなど新たなサービスの普及により年率約70%で増大するとともに、駅など人の集まるところに偏在化する傾向にある。このような状況下では、通信速度の低下やつながりにくい状況が発生し、無線通信環境の改善が求められている。通信環境改善のためには、無線環境に応じた最適な周波数で運用される小型基地局を、高密度に設置することが最も有効だが、通信事業者にとって、小型基地局の設置場所の確保や、敷設にかかるコストが大きな負担になっている。今回開発したシステムは、主に無線基地局内の送信システムに適用するもので、基地局装置の小型化による消費電力の削減や、周波数変更、信号歪補正などの調整の簡易化などを実現する。

具体的には、デジタル変調器への入力信号を振幅情報と位相情報に分解する。振幅情報のみデジタル化して信号波形の"密度"で表し、位相情報はデジタル化せずに波形の"位置"で表す独自の変調方式を新たに開発。これにより、従来の振幅と位相をともにデジタル化する変調方式に比べ、デジタル化にともなうノイズ(熱)を半減し、信号の変換効率向上に貢献する。さらに、同方式によるデジタル変調機能をIC化し、GaNトランジスタを用いたデジタルアンプと組み合わせたデジタル無線送信システムを開発して、高い電力効率と400MHz~3GHzの周波数可変を両立できるシステムを実用レベルで実証した。

さらに、現在、無線基地局で広く用いられている、複数のアンプを必要時のみ動作させて低消費電力を実現するドハティ方式の回路にデジタル信号処理を導入。2つのデジタルアンプに対して波形の振幅の大きさで分けたデジタル信号をそれぞれ入力することで、信号の振幅が小さい時には1つのアンプのみで増幅を行い、小型モジュールで容易にドハティ回路の動作を実現した。これにより、振幅の小さい低出力時の電力効率が向上し、LTEなどピーク電力と平均電力の差が大きい信号でも高い電力効率で増幅可能なため、基地局の小型化に貢献するという。

また、従来のアナログ無線送信システムでは、アナログアンプでの信号増幅時にシステム内部で振幅と位相の両方で信号の歪みが発生し、それぞれの補正が必要となる。今回開発したシステムでは、振幅情報はデジタル化しているため歪が生じにくく位相情報の補正のみで済むため、補正のための計算量を従来の約半分に削減できる。これにより、補正回路の規模を半減し、小型化に貢献する。

これらの特徴により、デジタル無線システムとして、消費電力を従来比で最大約30%削減しつつ、広帯域での柔軟な周波数対応を実現した。また、同システムでは、今回開発した高効率な信号変調方式で増幅器(アンプ)の小型化とともに低消費電力を実現し、放熱に必要な基地局の筐体を削減できるため、無線基地局のサイズを従来比で最大約50%小型化できるとしている。

デジタル変調器IC

デジタルアンプモジュール