毀誉褒貶(きよほうへん)は世の常だが、理化学研究所(理研)などのグループが1月30日付の英科学誌ネイチャーに発表した新しい万能細胞「STAP細胞」ほど、激しい渦に巻き込まれたケースは珍しい。この論文には画像やデータに不自然な点がいくつか指摘されて、疑問が投げかけられている。
日本分子生物学会は3月3日、大隅典子理事長(東北大学教授)名でSTAP細胞樹立の論文への対応について声明を出した。現在の事態を「大変憂慮している」と表明し、「日本の科学をリードする研究機関の一つである理化学研究所が、可能な限り迅速に状況の正確な報告について公表し、今後の規範となるような適切な対応を取るよう期待する」と求めた。
論文のささいなミスなのか、公正さを損なう背信か。論文の共著者にはベテランの研究者も含まれている。最終的には、STAP細胞の存在を確実に示せるかどうかにかかっている。大隅典子理事長がふだんから提唱しているように、若い理系女子(リケジョ)を支援するのは重要である。定説を覆す結果は受け入れられるのに時間もかかる。しかし、再現性がなければ、科学として成立するには難しい。今回の調査では、世界最高水準の研究機関を目指す「特定国立研究開発法人」(仮称)になろうとしている理研の力量も問われている。