第1回のテーマは「シズル感」

どんな業界でも、「業界用語」というものは存在する。業界の外の人からすると、何を言っているのかわからないことが多いものだが、一度覚えるとこれがなかなか(いろんな意味で)便利なので、ぜひ使いこなしたいものだ。この「クリエイティブ語講座」では、主にクリエイター界隈で使われている"クリエイティブ用語"を、デザイナーである筆者が例を交えながら解説していく。

第1回の用語は、業界にいる人間でもきわめて意味を説明しづらい用語の代表格「シズル感」である。

今回の例文

<製作現場>
(クリ:クリエイターを指す)

クリ1:「この料理写真、もう少しシズル感ほしいね」
クリ2:「ですね、もうちょっとシズってるほうがいいっすね」
クリ3:「おっ、このビジュアル、いいシズル感じゃないっすか~!」
クリ1:「だろー!結構シズってるよな!」

例文の翻訳

<製作現場>
クリ1:「この料理写真、もう少し野菜にみずみずしさと色合いがほしいね」
クリ2:「ですね、もうちょっと焦げ目がついていて肉汁が光ってるほうがいいですね」
クリ3:「おっ、このビジュアル、いいソースのテカリ具合じゃないっすか~!」
クリ1:「だろー!野菜とかみずみずしくてうまそうだろ!」

用語解説

[シズル感]

CMなどの広告制作などにおいて、食品の撮影やビジュアルの作成をする際に多く使われる用語。食欲や購買意欲を刺激するような、食品の活きの良さやみずみずしさと言った「おいしそうな感じ」を指す。言い換えれば「ソソる感」。五感を刺激するような感覚のこと。語源は英語の「sizzle」だと言われており、この言葉の本来の意味は「肉がジュージューと焼けて肉汁がしたたり落ちているような状態」。そのため、「見る人の食欲をそそるような状態」を表現する言葉として使われるのが基本となる。

しかし、最近では女性の肌の質感や、潤いを感じるような自然の風景などの製作シーンにおいても「シズル感」を連発する人間がおり、それを「どう解釈するのか」に正解がないため、困惑することも多い。個人的な感覚では、水分や湿度の表現全般に使われている印象だ。その一方で、ラーメンやステーキなどの食品の「湯気の表現」に対してはなぜか使用されない傾向が……。「シズル感」が欲しい、と言われた時は、「うまくいえないけど、何かほら、もうちょっといい感じにしてよ」といったフレーズに置き換えると理解しやすい。

ここで掲載した例文のように、同じ「シズル感」という単語を使っていながら、その認識が完全に食い違っている場合がある。そのため、この語を使う前後には、できるだけ「言いたいこと」の詳細説明を加え、認識の一本化に勤めたいところだ。

おわかりいただけただろうか。私個人としては、どう伝わっているか不安なのと、本音を言うと何だか気恥ずかしくて使えない用語のひとつだと感じている。というわけで、また次回!

くすきはいね
コトバ&グラフィックデザイナー。
広告デザインやロゴ、カフェのプロデュースなど、多方面にわたる「デザイン」を手掛ける