国立環境研究所(NIES)は2月6日、朝日航洋と共同で、サンゴ礁や藻場などが分布する浅海域を効率的に調査する浅海底観測システムを開発したと発表した。
近年、サンゴの白化や死滅、藻場の衰退など、浅海域の生態系の変化が観察されており、同域を反復して詳細に観測し、変化を定量的に明らかにして原因を究明する必要性が高まっている。従来、浅海域海底の詳細な観測は、スノーケリングや潜水調査により行われ、広域を対象とした調査には限界があった。また、水中ではGPSなどの衛星測位システムが利用できないため観測対象の精確な測位が困難であり、これが反復調査の妨げとなっていた。このため、サンゴ礁や藻場など浅海域の生態系においては、海底地形やサンゴ・海藻の3次元形状と現存量の把握や、生息位置の特定および経年的な変化に関する情報が乏しいのが現状である。
そこで、群体の判別を可能とする高解像度画像の撮影、ステレオ解析による海底地形や生物の3次元情報と現存量の取得、生物の生息位置を特定するための地理座標の付与、撮影画像を接合することによる詳細かつ3次元的な浅海底の広域画像の作成など、反復して調査を行い変化を定量的に明らかにできる観測システムの開発が求められていた。
今回、開発されたシステムは、小型フロートボートの左右に配置した水中ビデオカメラで海底の撮影を行うというもの。
フルHD(1920×1080画素)のビデオカメラを用いることで、水深5m程度での観測時には1cmよりも細かい解像度で撮影が可能。また、同一の観測対象を左右のビデオカメラでステレオ撮影することにより、対象の3次元形状を数値化し、3次元モデル(DSM:Digital Surface Model)を作成することができる。
またビデオカメラの撮影と同期してGPSによる位置座標と姿勢センサ(ジャイロ)によるフロートボートの傾き情報を収録する。DSMに撮影画像を投影し3次元化するとともに、同時収録したGPSおよび姿勢センサの情報に基づき、3次元化した画像に緯度・経度を付与する。小型フロートボートにシステムを実装したことにより、小型漁船でも座礁する危険のある極めて浅い海域でも観測できる。
これまで浅海底の反復調査では、GPSが使えないことから、調査対象を特定するために目印などを使う必要があったが、同システムによる撮影画像は全画素に位置情報を持つことから、精確な反復調査が容易になる。また、高さ情報も同時に得られることから海底地形やサンゴ・海藻などの3次元形状と現存量の経年変化の抽出も容易となる。
今後、地球温暖化で注目されるサンゴ礁の白化現象や再生状況のモニタリング、藻場をはじめとした浅海域の漁場評価、河川・湖沼の水底調査、さらには水中構造物の点検などへの活用が期待されるという。また、ナビゲーションシステムの搭載などにより、自動航行と観測を行うシステムへと発展させ、手軽な調査やモニタリングを実現することが期待されるとコメントしている。