日本マイクロソフトは1月27日、「デバイス&サービス カンパニーとしてのマイクロソフトの研究・開発における最新動向」と題した記者説明会を開催した。説明会では、マイクロソフトの研究・開発体制の変化の説明や、Kinectを利用した動作認識デモなどを行った。

会見で動向を紹介したのは、日本マイクロソフト 最高技術責任者 兼 マイクロソフト ディベロップメント 代表取締役 社長を務める加治佐 俊一氏。加治佐氏は25年前にマイクロソフトへ入社。20年前の1月に「Windows NT 3.1」の日本語版が発表されたことを引き合いに出し「このOSが基礎となり、OSカーネルがWindows PhoneやXboxといった様々なフォームファクターへと広がっている。このことは嬉しいが、その一方で、現状は決して満足できる状況ではない。(タブレット端末やスマートフォンといった様々な分野で)色々と巻き返していきたい」と語った。

日本マイクロソフト 最高技術責任者 兼 マイクロソフト ディベロップメント 代表取締役 社長 加治佐 俊一氏

25年間の中で、マイクロソフト内でいくつかの「波」を感じたと話す加治佐氏は、初めに95年のビル・ゲイツ氏のメモ書きのメッセージを例に出した。

「『The Internet Tidal Wave』のメモ書きによって、マイクロソフトをインターネットの世界に向かうことに舵を切った。次の波は2005年の『The Internet Services Disruption』で、データセンターサービスの展開へと舵を切った。これによって、ExchangeやExchange Onlineという、今日のクラウドサービスに対する流れができた訳だ。そして最後はスティーブ・バルマーの『The Device and Services』。この変革の波は、2013年7月の組織変更で明確になっている」(加治佐氏)

「デバイス&サービス カンパニー」という言葉はまだ成果を出し切れていないようにも見えるが、現在のIT業界のキーワードともいうべき流れにより沿った戦略には変わりない。「あらゆるデバイスを外出先で使えるように、人それぞれが行う活動を支援できるような、個人だけではなく、法人を含めて活用できるサービスを提供していく」(同氏)。

開発モデルを大幅変更

研究開発部門は、研究グループの「Technology & Reseach」の下にMicrosoft Reseachがつき、開発部門として「Operating System」と「Application and Services」「Cloud and Services」「Devices and Studio」「Business Solutions」の5部門が存在する。

Technology & Reseachには1000人以上の博士号を持つ研究員が在籍しており、様々な研究を行っている。また、研究だけではなく、政府などと連携してプライバシー管理といった諸問題の折衝にも携わっており「信頼できるコンピューティング」の拠点となっているという。

開発部門の5グループについては、かつて9つに分かれていたものを5つに集約。「Operating System」のグループではメインのWindows OSだけではなく、XboxやWindows Phoneなども開発している。ただ、いずれのグループについてもそれぞれが独立してブラックボックス化するのではなく、互いに連携を進めており、「ワンマイクロソフト」として日々開発にいそしんでいる。これは巨大な組織へと成長した後のマイクロソフトからすると「大きなカルチャーのシフトだ」と加治佐氏は語っていた。

これらのグループ分けは単純に名称を変更しただけではなく、開発モデルの変革も同時に着手している。これまでは3年単位での開発サイクルを設定して大規模プロジェクトとして製品開発を行っていた。

この開発様式では、機能要件を明確にできるメリットがあり、計画の初期段階で構想した機能を作り上げること目標に据えてじっくりとした作り込みが可能となっていた。しかし、読者であればご存知の方も多いと思うが、Windows XPからWindows Vistaへの開発過程で大きな問題が生じ、大幅なタイムロスを招いてしまった。従来の開発モデルでは、当初目標が絶対であるため、その要件を満たせない限りはリリースすることができず、結果として開発遅延やコスト増加に繋がってしまうこともあったという。

そこでマイクロソフトは、「ラピッドリリース」と銘打ち、年単位での開発サイクルに切り替えた。その最初の成果が、Windows 8からWindows 8.1というわけだ。「ただ、一つ勘違いしないでいただきたいのが『必ず1年で出すという訳ではない』ということ(笑)。スピード感を持って短いサイクルに変わったことを覚えていただきたい」(加治佐氏)

また、ラピッドリリースだけではなく、アプリケーションとクラウドサービスの部門では「アジャイル開発」を導入。小規模な機能開発の繰り返しを行うことで、テンポ良く製品を良くしていくことが可能になったという。また、Exchangeの導入初期は、機能追加をオンプレミス環境で導入テストしてから、クラウドサービスで提供していたが、組織改編後はクラウドサービスで先に提供を行うようになったという。これは、ビジネス向けに限った話ではなく、「Windowsのデスクトップアプリとタッチ操作ができるアプリを比較した場合、タッチアプリに対する最適化を優先していく」ものだとしている。

なお、実際にアジャイル開発を導入している例として、Office OneNoteのカメラキャプチャー機能をデモンストレーションで披露。東京の開発チームが担当しており、簡単なOCR機能も持つという。

OneNoteのデモンストレーション。斜めに撮影しても正面に補正してくれるだけではなく、OCR機能も装備

都市分析と認識技術の進化

一方、研究機関である「Microsoft Reseach」は世界に7つの研究所を持ち、日本に一番近い研究所では北京の「Microsoft Reseach Asia」がある。ここには6名の日本人研究者が在籍しており、昨年11月に設立15周年を迎えた。

この研究所では、日本以上に深刻な都市部の渋滞予測や大気汚染度を測ることで、課題解決を図る「Urban Computing」を行っている。「たくさんのデータを集めて何ができるか、このようなデータを上手く使って、都市に役立つようなことをしようというのがこの取り組み。例えば、渋滞情報では、日本だと公共交通機関を使って車の混雑を避けることができるが、北京だと空いている道路まで歩いてタクシーを拾い、目的地付近が混んでいたら、その近くで降りてまた歩くという混雑の避け方がある。そういった渋滞を避ける情報まで出せるように取り組んでいる」(加治佐氏)

また最後に、音声や顔認識技術、Kinectを活用した空間認識技術の紹介も行われた。2年前に同社が紹介した3Dリアルタイム処理によって、写真撮影した人物の表情と音声を合成する技術が進化を果たしており、従来は大きなコンピューター処理リソースを必要としていたものが、クラウド技術を活用することにより"いつでもどこでも"スマートフォンで楽しめるようになったという。会場で紹介されたビデオでは、Windows Phoneで人物を撮影し、その場で立体的な人物の3Dモデリングが生成されていた。

3D FACEと呼ばれる顔の3次元モデリングソフト。クラウド処理のため、マシンパワーを必要とせず、スマホで操作を完結できる

こちらは3Dプリンタへの応用。Kinectを活用して、身体で立体的なキャラクターデザインなども行うことができる

Kinectの紹介では、赤外線を利用した人物捕捉や、Xbox 360に付属されていた旧Kinectよりも高解像度化を果たした新センサーの威力を紹介。人物の骨格判定や表情判定、重心バランスの認識など、様々なライフログ要素を取り込めるメリットを強調していた。

Xbox Oneに付属する新Kinectを会場でデモンストレーション。Xbox Oneも実機が用意されていた