九州大学(九大)は10月4日、理化学研究所が所有し高輝度光科学研究センターが運用する大型放射光施設「SPring-8」での「4D観察」(3次元に時間を加えた、3Dでの連続観察のこと)を活用し、アルミニウムの真の破壊メカニズムを解明したと発表した。

成果は、九大大学院 工学研究院の戸田裕之 主幹教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、10月4日付けで米学会誌「Metallurgical and Materials Transaction」オンライン版に掲載され、11月1日発行の印刷版12月号にも掲載される予定だ。

金属に力を加えた場合、金属ごとに異なるが一定の力を越えると変形するようになり、そのまま力を加え続けて限界を超えると破壊に至る。その変形の過程では、金属材料内部に高密度に存在する微細な粒子の破壊から始まり、次にそれによってできた多数の「ボイド」(空洞)が徐々に成長し、最後にそれらのボイドが相互に連結することで材料全体の破壊に至るというメカニズムだ。

一方、戸田主幹教授らは金属内の微細な構造に関して、アルミニウムに着目して、その内部には非常に多くの微細な「ポア」(水素が充填された球状の穴で、1立方ミリメートル当たり数万~数10万個)が存在することをシンクロトロン放射光を用いて明らかにした実績を持つ。元々、アルミニウムには溶けきれない程の多量の水素が含まれており、これが材料中に微小なポアとなって出てくるというものである。戸田主幹教授らは、アルミニウムが作られるプロセスでポアがどのように発生するのかも、近年、SPring-8を用いて明らかにしている(画像1・2)。

画像1が、アルミニウム製造プロセスのSPring-8を用いた4D観察だ。非常に多くのポア(赤色)が鋳造直後(左上)から材料中に存在し、それが熱処理(左下)により成長する。その後の加工プロセス(中央の上、および右上)である程度消滅、微細化するが、最終的にかなり多くの微細ポアが残存していることがわかる(画像1右下および画像2)。

画像1(左):アルミニウム製造プロセスのSPring-8を用いた4D観察。画像2(右):画像1の右下にある最後の工程「焼純後」の拡大図

戸田主幹教授らは、一連の研究の中で、高密度に存在するポアがアルミニウムの破壊にも何らかの関与をしているのではないかという仮説を立て、これをSPring-8のイメージング用ビームライン「BL20XU」を利用した「CT(コンピュータ断層撮像法)」を利用した4D観察(画像3)で確認した。

画像3。実験風景

その結果、通常は破壊が生じない程度の小さな負荷の段階で、はじめから材料中に含まれる微細なポアが成長を開始してすぐに相互に連結し、その後、従来知られている破壊メカニズムが補完的に働いて材料全体が破壊に至ることがわかったのである(画像4~9)。

画像4・画像5:航空機用アルミニウムの変形・破壊プロセスをSPring-8でCTを利用して4D観察した結果。材料中に初めから高密度なポア(赤色)が存在し(a)、これが小さな負荷の段階から成長を開始し(b~g)、材料全体が破壊に至る(h)プロセスが示されている

画像6・画像7:画像4・5の中で、材料中に初めから存在する高密度に存在するポア(赤色)の内、材料全体の破壊に寄与したものだけを抽出した画像。微細なポアが早期に合体してき裂状になり、やがて破壊を誘発する

画像8・画像9:画像4~5をさらに拡大したもの。ここでは、粒子は水色、材料中に初めから存在する高密度に存在するポアは赤色、その内で材料全体の破壊に貢献したものを黄色、粒子が割れて発生した損傷を濃い青色で示されている。粒子が割れて濃い青色の損傷が発生した(c)の段階では、すでに黄色のポアは合体してき裂状(黄色)になっており、材料全体の破壊を引き起こしかけている

これは、SPring-8で得られた4D画像を見ることでもある程度確認することが可能だ。しかし戸田主幹教授らは、4D画像を解析して破壊の引き金となった材料組織の欠陥を特定できる画像解析手法を新たに開発することで、これを証明することに成功したのである(画像10・11)。

画像10・画像11:破壊の引き金となった材料組織の欠陥を特定できる4D画像解析法を適用した例。上から順に、負荷がかけられる前(a)、負荷中の画像2枚(b、c)、そして破壊後の画像(d)。破壊後の画像から破断面(黄色と水色の線で表示)を抽出し、将来破壊するであろう位置を、破断した後の段階から、負荷をかける前の段階に向かい、時間を遡って順次予測する。これにより、負荷をかける前の画像中に見られる粒子や欠陥の内、どれが実際に破壊を引き起こしたのかを正確に特定できるというわけだ

アルミニウム材は、自動車や航空機などの輸送用機器や建築、各種機械に広く使われている。これまでの学問や産業技術では、前述した破壊メカニズムを念頭に、金属材料内部に高密度に存在する微細な粒子を除去したり、小さくしたりすることで強度などの特性を向上させようとしてきた。しかし、航空機用のアルミニウムを例にとると、第2次世界大戦前後に開発された航空機用アルミニウムがいまだに航空宇宙分野で多用されていたりする。これは、アルミニウムの強度がこの70年の間、ほとんど向上していないためだ。

今回明らかになった真の破壊メカニズムを念頭に置けば、アルミニウム中のポアを減らしたり、その空間的な配置を制御したりすることで材料特性を向上させる技術を開発することが可能となる。これにより、レアアースのような特殊な添加元素や複雑で高コストの製造プロセスに頼らなくても、環境負荷の低減やコスト面での競争力を充分に担保しながら、高性能なアルミニウム材が創製できる可能性があるというわけだ。実際、戸田主幹教授らはこの研究と平行し、アルミニウム作製時に水素が入らなくすることで微細なポアが大幅に削減され、その結果として強度や破壊靱性、成形性など、構造用材料にとって重要な各種特性を最大で数10%向上できることを実証済みである。

日本は、2013年度から今後10年間にわたり、輸送機器の抜本的な軽量化に向けて、構造材料の高強度化を目指す研究開発(経済産業省プロジェクト:「革新的新構造材料等技術開発」)を大規模かつ強力に推進している形だ。アルミニウムに関しては、今回の研究で得られた学術成果に基づき、九大とUACJ(古河スカイと住友軽金属工業が2013年10月1日に合併して発足したばかりの新会社)が中心となり、10月より研究開発をスタートする。

UACJは、第2次世界大戦に際し、零戦に使われた「超々ジュラルミン」という高強度なアルミニウムが開発された企業(の系譜)として知られる企業だ。今回の国家プロジェクトでは、70年ぶりにアルミニウムの強度特性を飛躍的に向上させ、「超々々」ジュラルミンともいうべき傑出した材料を創製することを目指しているという。これは、ひいては第2次世界大戦により壊滅した日本の航空機産業の再興をも強力に後押しするものと期待されるとしている。