国立国際医療研究センターは9月2日、同センター糖尿病研究部の野田光彦部長らによる研究グループが、重症低血糖を呈し救急搬送された1型糖尿病患者と2型糖尿病患者を調査した結果、心血管疾患や致死的不整脈など、死につながる可能性がある危機的状態を呈していることを明らかにしたと発表した。

同成果の詳細は米国糖尿病学会の機関誌「Diabetes Care」に掲載された。

重症低血糖はけいれん、意識障害などの死につながりうる危険な状態であり、最近の研究から、糖尿病患者における重症低血糖は心血管疾患や死亡のリスクを上昇させる可能性が示唆されるようになってきた。また、重症低血糖が致死的不整脈を誘発する可能性も考えられるようになってきているが、重症低血糖時の全身状態や合併症などに関する詳細な報告はこれまでになく、重症低血糖に関する不明な点も多い残されていた。

研究グループは、そうした課題に対し今回、2006年1月から2012年3月までに同院に救急搬送された重症低血糖患者を過去にさかのぼって調査し、重症低血糖患者の全身状態や合併症、その後の短期的な臨床経過をカルテ、血液・尿検査、心電図、画像検査などをもとに評価を行った。なお重症低血糖は自力での改善が不可能で、ブドウ糖静注などの医学的な介入を要する状態と定義したほか、来院時に心肺停止の状態であった患者は除外し、対象者は来院から状態が安定し病院を離れるか死亡するまでフォローする形で行われた。

また、今回の研究は、糖尿病患者における重症低血糖時のバイタルサイン、QT間隔、新規に診断された心血管疾患を中心に評価を行い、重症低血糖時の全身状態を系統的に詳細に調査することを目的に行ったとのことで、その結果、救急外来に救急車で搬送された5万9602症例がスクリーニングされ、重症低血糖と診断された414症例が対象となり、その血糖値の中央値(四分位範囲)は1型糖尿病群(n=88)と2型糖尿病群(n=326)でそれぞれ32mg/dL(24-42mg/dL)と31mg/dL(24-39mg/dL)で有意差は認められなかった(P=0.59)という。

また、重症低血糖時の1型糖尿病群と2型糖尿病群の各群において、重症高血圧(180/120mmHg以上)は19.8%と38.8%(P=0.001)、低体温(35.0℃未満)は18.0%と22.6%(P=0.37)、低K血症(3.5mEq/L未満)は42.4%と36.3%(P=0.30)、QT延長(QTc 0.44秒以上)は50.0%と59.9%(P=0.29)であったほか、重症低血糖時に新規に診断された心血管疾患とその後の死亡は2型糖尿病群においてのみ認められ、それぞれ1.5%と1.8%であったとする。

さらに、両群とも重症低血糖時に外傷の合併が5%以上の割合で認められ、2型糖尿病群においては新規に診断された心房細動の合併も4.3%で認められたとのことで、2型糖尿病群の死亡例と生存例の血糖値はそれぞれ18mg/dL(14-33mg/dL)と31mg/dL(24-39mg/dL)であり明らかな有意差が認められたとする(P=0.02)。

なお、研究グループでは、今回の結果を受けて、1型糖尿病と2型糖尿病で重症低血糖時の状態が異なるということだけでなく、重症低血糖が心血管疾患、致死的不整脈、死といった重篤なイベントにつながりうる危機的状態であることが示されたことは、今後の日常診療や臨床研究の発展に寄与するだろうとコメントしているほか、今後、さらなる重症低血糖の病態解明だけでなく、重症低血糖を回避しながら良好に血糖を管理しうる糖尿病治療の確立が期待されるようになるとも述べている。

重症低血糖時の血圧

重症低血糖時のイベント