東京大学は7月26日、バイオ燃料資源として期待されている微細緑藻「Botryococcus braunii(B.braunii)」(画像1・2)を海水を用いて培養することで、乾燥や加熱など、エネルギーの大量消費を必要としていた前処理工程を行わずに大部分の炭化水素を溶媒抽出することに成功したと発表した。
成果は、東大大学院 農学生命科学研究科 生物・環境工学専攻の古橋賢一氏(日本学術振興会特別研究員)、同・佐賀清崇 助教、同・岡田茂准教授、同・芋生憲司 教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、6月14日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載済みだ。
化石燃料の枯渇や地球温暖化対策として注目が集まっている次世代のバイオ燃料資源が、単位面積当たりのオイル生産性が高い微細藻類だ。通常、オイル生産性微細藻類は細胞内にオイルを蓄積させるが、今回の研究で用いられたB.brauniiは、乾燥重量の数十%におよぶオイルを個々の細胞をつないでいる細胞間マトリクスに蓄積させるという特徴を持つ。またこのオイルは酸素原子を含まない発熱量の大きい重油相当の炭化水素だ。
B.brauniiはこれらの特徴を持つため、ほかの微細藻類と比較してオイルの抽出・変換・精製工程におけるエネルギーやコストの削減が期待されている。ただし、炭化水素の蓄積の場である細胞間マトリクスは非常に弾性に富んでいるため、圧搾などによる物理的な回収が難しく、また有機溶媒も炭化水素に容易に接触できないという問題があった。このため、高効率でB.brauniiから炭化水素を得るには、加熱もしくは乾燥というエネルギーを大量に消費する前処理工程後の溶媒抽出が必要だったのである。
そこで研究チームは今回、海水を1/4濃度に希釈した汽水培地で淡水性であるB.brauniiを長期間培養することにより、藻体を加熱・乾燥することなく、湿藻体に直接有機溶媒を混合するだけで、炭化水素の大部分を回収できることを発見した(画像3~5)。
今回の発見は、前処理で藻体を殺さずに炭化水素を回収し、同藻体を再利用して炭化水素を再生産させる技術「ミルキング」につながる可能性を持つ。ミルキングを用いて培養槽内でB.brauniiから炭化水素のみを回収しつつ高い藻体濃度を維持すれば、「コンタミネーション」(競合する微細藻類や雑菌の繁殖)を防ぐことが可能となるかも知れないとしている。