「HTML5に未来はあるのか」

前回までと同様、ここからは登壇者全員が参加してのディスカッションとなる。

最初に挙げられたテーマは、「HTML5に未来はあるのか」というもの。白石氏にとっては非常に物騒なテーマだ。

議論のスタート地点として、Sencha社が開発したFastbookについて言及がなされた。FastbookはFacebookのネイティブアプリを再実装したHTML5のアプリであり、ネイティブアプリのように非常に快適に動作する。HTML5が実用的な技術であることを示す代表的なアプリケーションだ。

このFastbookについて大前氏は、「WEBアプリでネイティブアプリ並の反応速度で動作するアプリは作れるが、WEBアプリがネイティブアプリを反応速度で超えることは論理的に不可能」と一蹴。これに対し、増井氏は「ミイルのHTML5で書き直した部分はネイティブアプリを超えている部分もある」と話し、実際にWEBアプリがスムーズに動く様をデモで紹介した。他にも、WEBアプリを用いる利点としては、「アップデートの際にApple社の審査を通す必要がなく、短期間でリリースができる」(増井氏)点が挙げられる。

さらに大前氏は「HTML5は実行環境の技術であってアプリケーションの開発者が直接触るべきレイヤーではない。なんらかのフレームワークなり開発環境を通して利用するべきもの。また、HTML5は様々なプラットフォームで実行できると言うが、HTML4でさえ現実はそうなっていなかったことを考えると、マルチプラットフォーム対応というのは開発環境が担保するものと考えるべき。さもなくばアプリ開発者は、開発環境を作る努力をすることになる」とHTML5の汎用性について否定する。

対する白石氏は「HTML5になってから互換性は問題視されており、HTML4の頃とは大きく違っている」と反論した。一方で、プラットフォーム間の互換性については「ツールキットは難しい部分を隠すが、原因の特定を難しくする側面もある。それはHTML5も同じ状況」(増井氏)という指摘もあった。

「ネイティブプラットフォームへの機能追加は減っていく」

次は白石氏によるネイティブアプリへの問題提起だ。

「PCではWindows XPでOSの機能が安定してから、面白いアプリは全てWEBで出るようになった。モバイルもOSへの機能追加は落ち着いて来ており、同じ道をたどるのでは?」(白石氏)。

大前氏は、「もう何年もの間、アプリの牽引役はネイティブOSの機能ではなくWEB APIのようなクラウド的なもので、WEBアプリでもネイティブでもそれらと連携することは簡単だ」と反論する。

一方HTML5への機能追加については、「現在のHTML5は昔のLinuxに似ている。必要なものは全て自分で実装しなければいけない。そう考えると、HTML5が今後ネイティブアプリ化する可能性は十分ある」(増井氏)、「UIコンポーネントはGoogle社が力を入れている部分でもあり、今後期待できる」(白石氏)などという見方があり、ネイティブOSの機能が安定しつつある中で、HTML5がそれを追いかける状況になっているという印象を受けた。

「ハイブリッドは銀の弾丸なのか?」

WEBアプリもネイティブアプリも一長一短であれば、それぞれを得意な分野で使うのが一番いいのではないか。

「ミイルではWEBアプリ、ネイティブアプリのどちらも使っている。コストをかけてでも作り込みたい部分はネイティブアプリで、頻繁に更新があり、かつ、多様なプラットフォームで動作を保証する必要があればWEBアプリ」(増井氏)と適材適所で使い分けるアプローチは実際有効なようだ。

一方で、大前氏は「WEBアプリの方が適する場面もあるが、それは開発環境がビルド時に分けてくれるのが理想的だ」と開発環境の役割の大きさを強調する。白石氏はクックパッドのアプリがハイブリッドであることを挙げ、「ABテストをするためにはユーザの行動の素早く反応する必要があり、WEBアプリが適している分野だ」と実例を出してハイブリッド構成の有用さを紹介した。

以上が議論の内容である。短い時間ではあったが、これまでの会にないほど双方の意見がぶつかる大変濃密なディスカッションだった。

今回プレゼンターの3名にはあえて立場を分けてディスカッションして頂いたが、「ネイティブアプリでもWEBアプリでもユーザには関係ない。どれだけよいユーザ体験を提供できるかだ」(大前氏)という大前氏の意見が、エンジニアの姿勢として最も大切なことであるのは言うまでもない。そのための最適な選択ができるよう、きちんと比較検討をしていくことが大切であると感じた。

著者プロフィール

本間雅洋

北海道苫小牧市出身のプログラマー。好みの言語はPerlやPython、Haskellなど。在学中は数学を専攻しており、今でも余暇には数学を嗜む。現在はFreakOutに在籍し、自社システムの開発に注力している。

共訳書に「実用Git」(オライリー・ジャパン)、共著書に「FFmpegで作る動画共有サイト」(毎日コミュニケーションズ)がある。