北海道大学(北大)は5月29日、中国河南省地質博物館、中国科学院地質研究所、との共同研究により、中国遼寧省において、アジアで最も原始的な「テリジノサウルス類」に属する、奇妙な構造を持った新族新種の羽毛恐竜「ジアンチャンゴサウルス・イシアネンシス(Jianchangosaurus yixianensis)」(画像1)を発見し、同時に鳥盤類恐竜との類似性と同恐竜の植物食性進化ならびに獣脚類恐竜における植物食性進化について解明したと発表した。

成果は、北大 総合博物館の小林快次 准教授らの国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間5月30日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

画像1。ジアンチャンゴサウルスの復元画。(c) 小田隆氏

遼寧省から中国河南省地質博物館が購入した恐竜の化石は、下部白亜系義県層(バレミアン期:約1億2500万年前)から発見されたもので、ほぼ全身がそろっている骨格だ(画像2・3)。北海道大学総合博物館では、2010年から河南地質博物館と中国科学院地質研究所と共に共同調査を開始し、研究の結果、この恐竜が、ティラノサウルスを初めとする主に肉食恐竜で構成されているグループである獣脚類のテリジノサウルス類に属することがわかった。

今回研究されたテリジノサウルス類の化石(画像2(左))と、その詳細な骨格復元図(画像3)

テリジノサウルス類は、中国、モンゴル、米国の白亜系から発見されている恐竜で、特異な獣脚類恐竜として有名だ。その特異性により、以前はブラキオサウルスなどの巨大な植物食恐竜のグループである竜脚類に類似しているという考えもあったが、近年の系統解析により、獣脚類「コエルロサウルス類」であることが受け入れられている。

テリジノサウルス類の特異性は、歯の鋸歯が大きく、骨盤が異常に広いため体腔が大きいことだ。そのため、植物性であることが示唆されている。その一方で、テリジノサウルス類を代表するテリジノサウルスが大きな爪を持っていたことでも有名で(画像4)、テリジノサウルス類は謎の多い恐竜とされていた。

画像4。テリジノサウルスの巨大な腕

今回の研究では、新しく発見されたテリジノサウルス類を詳細に観察して系統解析を実施。得られた結果によると、この標本は同じ地層から発見されている「ベイピアオサウルス」とは異なる恐竜であり、親属新種の恐竜であることが判明した。そこで小林准教授らは、この恐竜をジアンチャンゴサウルス・イシアネンシスと命名したとしている。

ジアンチャンゴサウルスの特徴の1つが、原始的な羽毛「長広繊維状羽毛」が生えていたというものだ(画像5)。幅2.3ミリと原始的な羽毛にしては幅広く、また長さが10センチほどあったと考えられるという。これらの羽毛は、首に対してほぼ垂直に生えており、親属のベイピアオサウルスも羽毛恐竜の1種だが、そちらはほぼ45度で生えており、異なっていたようだ。

系統解析により、ジアンチャンゴサウルスは、「テリジノサウルス上科」と姉妹群である基盤的で、ベイピアオサウルスよりも原始的なテリジノサウルス類であることが判明した。最も原始的なテリジノサウルス類は、米国ユタ州の「ファルカリウス」で、その次に原始的であることがわかり、つまりアジアで最も原始的なテリジノサウルス類だということがわかったのである(画像6)。

画像5。ジアンチャンゴサウルスの首のあたりに残されていた羽毛の化石

画像6。今回の研究で得られた系統樹

また今回のジアンチャンゴサウルスの発見によって、肉食の恐竜によって構成されていると思われていた獣脚類恐竜の中で、テリジノサウルス類が植物食であったことが確認され、テリジノサウルス類のかなり初期の段階で植物食の進化が起こっていたことが明らかになった。

ジアンチャンゴサウルスの歯や顎の構造(画像7)が、恐竜の中で最も植物食に適応していたと考えられている、ハドロサウルスやマイアサウラなどの鳥脚類や、トリケラトプスなどの角竜類の構造に似ていいることも確認されている。このことから、ジアンチャンゴサウルスが、植物を食べていた恐竜であることが確実視されるという。

ジアンチャンゴサウルスの歯や顎の構造によって、頭骨に植物食性の適応が起こっていたことが明らかになったが、その一方で、身体はまだ原始的でほかの獣脚類のように走行性の高い身体の作りをしてることもわかった(画像8)。この発見によって、テリジノサウルス類は、初期進化では歯や顎の構造を進化させ、まず植物食性へ適応をし、その後巨大化に伴う体腔の拡大によって植物を消化したと考えられる。このように、身体の部分によって進化の時差があることも解明された。

画像7。ジアンチャンゴサウルスの頭骨復元

画像8。ジアンチャンゴサウルスの骨格復元

テリジノサウルス類は、アジアの白亜紀の地層から多数が発見されている。例えば、モンゴルのバインシレ層(白亜紀後期の前期)からはエニグマサウルス、セグノサウルス、エルリコサウルスが、中国のイレンダバス層(白亜紀後期)からはエリアンサウルスとスジョウサウルスなどが発見されている。また、中国の白亜紀前期の終わりの地層からは、アラシャサウルスとネイモンゴサウルスも見つかっている。

このように、同じ時代または同じ地層かららテリジノサウルス類の化石が発見されることが多く、今回のジアンチャンゴサウルスの発見によって、同じ地層から発見された別種のテリジノサウルス類の共産としては、これまでで一番古い例となった。そのため小林准教授らは、テリジノサウルス類は、植物食性という進化を遂げ、その中でそれぞれ異なったニッチへと適応し、共存できたのかも知れないとしている。