5月8日から10日まで、東京・ビッグサイトで開催された「第3回 スマートフォン&モバイルEXPO春」は、企業におけるモバイル活用の普及に伴い、非常に活況を帯びていた。とくに、PCをサーバとして利用できるデータベースソフト「FileMaker」とiPhone/iPadの組み合わせは、これまでシステムの導入に踏み切れなかったSMBの敷居を下げ、業務効率化を後押ししている。そこで今回は、EXPOで紹介されていた注目のSMB向けiPhone/iPadソリューションをいくつか紹介しよう。

「スマートフォン&モバイルEXPO」のファイルメーカーのブース

iPadで点検/棚卸業務を快適にする「CheckManシリーズ」

U-NEXUS(ユーネクサス)は、 FileMakerを利用したiPad/iPhoneソリューションを開発している企業。同社ではCheckManシリーズ「点検整備 ing」と「在庫整備 ing」という2製品の導入事例を紹介していた。

「点検整備 ing」は、各種点検のチェック業務をiPad上で行えるシステム。iPadの画面をタッチすることで「○×」によるチェックが行えるほか、問題がある場合はiPadのカメラを利用しその場で写真を添付したり、自由文でのコメントを記述して報告することも可能だ。

システムはネットワークに接続して利用することを前提としており、現場の進捗状況を別拠点の事務所で上司が確認したり、作成した報告書をメールで送信することもできる。現在は、清掃業務や製造業の設備点検業務などで利用されているという。

「点検整備 ing」の利用例。問題があれば、写真付きで内容を報告できる

一方、「在庫整備 ing」は、棚卸業務を効率化するツール。製品名や理論在庫数を利用中の基幹システムからCSVデータとしてiPadに取り込み、その後、実在庫を確認してiPadに入力する。実在庫と理論在庫に差分があった場合には、色分け表示やポップアップ、エラー音などで画面に警告が表示され、再確認を促がす仕組みだ。

「在庫整備 ing」の利用例。システム上の在庫と実在庫の差も確認できる

電子決済を支援するワークフローシステム「Account Note」

テクニカル・ユニオンの「Account Note」は、電子決済が可能なワークフローシステムだ。休暇申請や交通費精算といったフォーマットを標準で用意しているほか、企業が現在利用している独自フォーマットへの対応も可能だ。書類添付機能を備え、交通費精算の際のタクシー領収書などは、スキャナで読み込んだ書類や iPadで撮った写真を添付書類として、伝票に紐付けて保存できる。

「Account Note」。こちらは管理職用。各申請書の横に表示されている数字は、承認が必要な申請数

各種申請は用意されたリストから申請者が承認者を選択できる仕組みで、組織変更が頻繁に行われる企業でも柔軟に対応できる工夫を行っている。社員ごとの積算データ集計などもサポートし、申請/承認業務を効率化してくれる。

交通費の清算申請。承認印もJPEG画像で作成し利用できる

利用者自身による貸し出しを可能にする「SALC図書管理システム」

ウィズダムの提供する「SALC図書管理システム」は、利用者自身による貸出し業務を可能にし、自主学習を支援する図書管理システムだ。数千から1万冊程度の蔵書(CDやDVDも)を管理することを想定しており、開架式の小規模な図書室でも活用可能だ。もともとは新潟県立大学向けに開発されたシステムで、学校での採用例が多いという。

「SALC図書管理システム」

各書籍に付けられているISBNコードを利用してAmazonから表紙画像や書籍の基礎データを取得できるため、個別に図書データを入力する必要がなく、登録利用者ごとに貸出し冊数や期間の設定も可能だ。返却日を過ぎると3回まで自動で督促メールが送信される。利用者によるブックレビュー機能もあり、自主学習もサポートされる。図書以外のレンタル業務などにも適用できるという。

各図書の詳細データ

商品選択と接客をサポートする「ORDER NAVI」

バンザイクリエイティブの「ORDER NAVI」は、店頭での利用者のオーダーを支援する。来店者が数個の設問から項目を選択することで好みに合った商品が「オススメ商品」として表示される。対面で商品説明を行うと時間がかかるので、顧客にiPadを渡し、自分で好みの商品を選んでもらうというシステムだ。好みが分かれるコーヒーやワインなどが想定利用例だ。顧客とのコミュニケーションを図るきっかけにもなるという。

商品の優先度も設定可能なため、在庫数などからお店が販売したい商品を優先的に表示させることも可能だという。

「ORDER NAVI」。画面は氷上性能やドライ性能などから好みのスタッドレスタイヤを選択するというシステムの例

「ORDER NAVI」のみを利用するのであれば、iPad単体で動作可能で、オーダーシステムとして利用したり、同社のレジソリューションと組み合わせて決済まで行うこともできる。

顧客の選択した結果を分析して、マーケティングに活用することも可能

美容院での顧客管理とヘアカタログに使える「コンセイエ」

寿商会は美容室向けソリューション「コンセイエ」を提供する。仕上がり写真を撮影し、個人情報とともに登録することで電子カルテとして利用できるシステムだ。写真への手書きの書き込みも可能となっている。コンセイエ(Conseiller)とは、フランス語でカウンセラーという意味だという。

「コンセイエ」。左が顧客情報で右が来店時の情報

また、撮影した顧客写真や雑誌を撮影した写真等を利用してヘアカタログとしても利用できる。さらに、来店促進メール送信やDM用の宛名ラベル出力も可能だ。iPad単体で利用する方法や、PCをサーバにして複数のiPadを利用する方法が選択できる。

レシートプリンタやキャッシュドロアを組み合わせてレジシステムとしても利用できる

見積書の作成から承認、送付までを支援する「Swing」

ジェネコムは見積書作成から承認、見積書のメール送信等までを行う「Swing」と、商品カタログ閲覧から在庫確認、決済までを行える「Switch」を展示。

「Switch」は商品カタログから在庫確認が行える機能を持っており、バックヤードに行くことなく、店頭で在庫確認をしながら購入処理が行える。レシートプリンタやキャッシュドロアと連動させ、レジシステムとしても利用可能だ。さらに、PCと組み合わせて請求書等の印刷や、基幹ステムとの連携にも対応する。

「Switch」のシステム

「Switch」の商品カタログ

一方「Swing」は、iPad上で見積書を作成し、上司への承認依頼、上司の承認、顧客への見積書送付という一連のフローをiPad上で行える営業支援システム。外出先でも作業が行える。

上司の承認を得た後は顧客に見積書を添付ファイルとしてメールしたり、インターネットFAXと連動させてFAX送信が行える。社内の販売管理と連携して、商品の単価や在庫確認もできる。

見積書の承認依頼

見積書の送付

受注情報の管理/入力を効率化する「Tools4Sales Get's!!」

ジュッポーワークスは、受託開発した受注管理システムを「Tools4Sales Get's!!」として展示。iPadによる受注情報入力とサーバへのデータ送信機能を盛り込むことで、従来は営業担当者が帰社後に紙の受注伝票をもとにシステムに入力していた手間を省く。

受注管理システムのメニュー画面

流れとしては、朝、営業マンが社内システムの顧客情報をiPadに格納。過去3カ月分の受注履歴も受信できるので、定型の場合は日付を変える程度で過去の受注を再利用可能。営業が終了後帰社時は、受注データを社内システム送信してデータを登録する。これにより、帰社後の営業マンの残業を削減する。

受注詳細。システムは基本的に個別開発なので、画面はカスタマイズ可能

常時接続ではなく、朝晩にサーバと同期する方式を採ることで、通信環境の悪い場でも利用可能なシステムとなっている。

行動管理もできる日報「s-Cloud365 日報管理システム」

三栄メディシスは写真や動画、音声が添付できる日報作成機能に、共有機能を加えた「s-Cloud365 日報管理システム」を提供する。日報データはクラウドに格納される。日報を作成した位置情報も取得できるため、担当が実際に客先を訪問しているかどうかを上司が確認可能だ。

日報作成画面

共有メンバーで過去の日報を検索し、顧客単位でまとめることで、ほかのメンバーの対応も含めた顧客対応履歴を確認することも可能だ。

過去の日報の参照

位置情報をマッピングする「Yes マッピングシステム」

イエスウィキャンは、iPhone/iPad/iPod Touchで現在地の写真を撮影して登録するだけで、地図上に位置情報とともに登録するマッピングシステムを提供する。動画や音声、Excel、PDF、手書き文字なども保存可能だ。

「Yes マッピングシステム」

写真等と位置情報を紐付けたマッピングは、自動販売機設置の地域戦略資料作成や、選挙区のポスター管理等のほか、第1回富士山マラソンにおいて救護チームの状況把握に利用された実績がある。

富士山マラソンでの活用

「FileMaker Go」で間口が広がり日本市場が成長

ファイルメーカー社長 ビル・エプリング氏

FileMakerのソリューションは、最近日本企業でも活用例が増えてきているが、特にそれを後押ししているのはiOS搭載機器で、「FileMaker Go」が無料で利用できるようになった点が大きい。「FileMaker Go」はすでに全世界で65万ダウンロードを達成し、そのうち13万ダウンロードは日本からのものだという。

「FileMaker Goによって、FileMaker Proでリーチできなかったクライアントにリーチできるようになりました。特に日本のマーケットは、FileMaker Goのリリース後の新規顧客獲得率や、セールスの伸びも他の地域に比べて高くなっています」とファイルメーカー(株)社長 ビル・エプリング氏は語る。日本市場の売上は、世界全体の25%を占めているという。

現在、日本法人で受け付ける問い合わせの20%程度がFileMaker Goに関するもので、パートナーの中には半分近くがFileMaker Goの開発案件というケースもあるようだ。

ファイルメーカー 法人営業部マネージャー 日比野暢氏

また、営業部マネージャーの日比野暢氏は、「従来は企業の基幹システムを構築していた開発会社がFileMakerを手がけるようになるという例も多く、最近はFileMaker Goをきっかけに開発に着手し、その後バックエンドのシステムを開発するという逆転現象も起きています。4年前に比べてパートナー企業は倍増していますが、増えたパートナーのうち半分程度はFileMaker GoとiPad等の組み合わせで新しい提案ができるという期待を持っています」と語る。

現在、ファイルメーカーでは、より多くの開発パートナー(FBA)を増やすことに注力している。同社の製品は医療・医薬といったメディカル系での採用が多いが、今後はiPadを活用している業界に積極展開して行きたいという。さらに、FileMakerはプログラム開発が容易であるため、従来の開発業務に携わっていない企業のFBA参加にも期待しているという。

「iPadのシステムでは、画面デザインを重視されるケースもありますので、DTPを行ってきたデザイナー中心の企業などにもパートナーになって欲しいと考えています」と日比野氏は語った。