米アドビ システムズは5月6日~8日(米国時間)までの3日間に渡って、同社製品のユーザを集めたカンファレンス「Adobe MAX 2013」を開催した。同イベントでは、アドビの新しい製品や今後の戦略の発表、最新の技術や業界動向の紹介などが行われるのが恒例となっている。特に基調講演と並ぶ人気を誇る「Sneak Peeks」セッションでは、同社が将来に向けて開発を進めている最新技術が披露されるため、その注目度は極めて高い。本レポートではそのSneak Peeksセッションの様子をレポートする。

このセッションの案内役を務めたのは、アドビのDirector of EvangelismであるBen Forta氏と、俳優のRainn Wilson氏。そして特別ゲストにテレビドラマ『24』などでお馴染みのMary Lynn Rajskub氏が登場した。参加者にはビールやワインが配られ、開発者のデモに対してWilson氏がチャチャ入れをするなど、基調講演とは全然違った雰囲気で進行された。

左から、Mary Lynn Rajskub氏、Ben Forta氏、Rainn Wilson氏

デジタルスタイラス「Project Mighty」

まずは基調講演で発表されたデジタルスタイラス「Project Mighty」の紹介。このアイテムを使うことにより、レイヤーを重ね、下に元になる画像を置いてペンでなぞるなどといったこともできるとのこと。また、画像をタイル状に並べたり、ブラシ代わりに利用するなどといった機能も、Mightyから呼び出すことができる。

レイヤーを重ねて絵を描く

画像をブラシとして利用

Bracketsもレスポンシブデザインに対応

これからのWebではレスポンシブデザインがスタンダードになるといわれているが、コードエディタのBracketsでもレスポンシブデザインのサポート機能を開発中だという。Reflowのようにブレークポイントが設定できるようになっており、ライブプレビューで確認しながらコーディングすることが可能。

Bracketsでレスポンシブなサイトをコーディングする

プレビュー画面からコードの修正が容易に

さらに、プレビュー画面上で要素をクリックすると、コード内の該当する箇所に自動でフォーカスが移動するという機能も紹介された。

Photoshopの手振れ補正をタブレットに

「Photoshop CC」には新たに強力な手ぶれ補正機能が追加されるが、残念ながらタブレット版には搭載されていない。これは、高度な手ぶれ補正には膨大な計算が必要なため、デバイスの処理能力が追いつかないという問題があるからだという。そこで、クラウド側にエンジンを置いてそれを呼び出すことで、タブレットでも手振れ補正を使えるようにするという。

補正された画像を複数作成して、気に入ったものを選ぶといった使い方もできるらしい。さらに、クラウド側のエンジンではどのような補正が人気があるのかというデータを蓄積してアルゴリズムの改善に役立てるのだという。手ぶれ補正機能のタブレット対応もさることながら、Photoshopエンジンの一部機能をクラウド側に置き、それをネットワーク経由で利用するという形態も興味深いものだった。

照明効果を自在に設定できるAfter Effectsの新機能

続いて「After Effects」の機能で、後から照明効果を自由に変更できるというもの。夕日が当たっているような効果や、夜景のように見せる編集などが簡単に行える。奥行きなども解析して効果を加えるため、あたかも本当に撮影したような映像が出来上がる。ある画面に対して設定した照明効果を、同じ場所を別の角度に自然な形で適用することも可能だという。

夕照明効果を簡単に追加できる

モノクロ映画の色調を別の映像に適用

さらに、好きな動画を元に照明の設定を自動生成し、それを自分の動画にそのまま適用できるという機能も披露された。

Adobe Museを使って様々な効果を簡単に追加

続いて、「Adobe Muse」でWebデザインをする際に、要素を動かしたり、パララックス効果を追加したりといったことが非常に簡単にできるという機能の紹介。ぼかし効果や3D効果も適用できる。

Museがパララックス効果に対応

Edge Codeに強力なデバッグ機能が

「Edge Code」については、ライブプレビューからのデバッグ機能が紹介された。Ajaxで通信した結果のデータから、使われていないコードをハイライトするといったことができるらしい。この機能はGitHubからチェックアウトできるようになっているとのこと。

サーバとの通信結果が見られる

絵心が無くても絵が描ける

絵心が無くても絵の具でペンとしたような絵を簡単に描くことができるPhotoshopの機能。隣に元になる画像を表示した状態で、白いキャンパスをブラシで適当になぞるだけで、その元画像から色情報を拾って絵画風にした絵が作成される。重ね塗りもでき、単に画像をコピーするだけではない自分なりの"それっぽい"絵画を作ることができる。

右が元にした写真、左が自分で作成した画像

電子書籍にもパララックス効果を

続いてデジタルパブリッシングに関する新機能。電子書籍のコンテンツに対しパララックス効果をはじめとする様々な効果を追加することができる。デバイスの傾きに反応して見せ方を変えることも可能になっている。

電子書籍の見せ方も変わる

オンラインショッピングをより直感的に

続いて、ショッピングサイトにおいて、直感的な操作による商品の検索を行えるようにするという技術の紹介。左上のテンプレートは、指を使って商品の形や色を自在に変更することができ、画像認識技術を活用してそれに似た商品をリアルタイムに検索してリストアップしてくれる。プリントシャツなども探すことができる。

指で絵を描く感覚で探したい商品の形や色を指定する

プリントの指定も可能

Edge CodeでPSDファイルを扱う

「Edge Code」の進化は止まらない。次に紹介されたのは、PSD形式のファイルを読み込んでスタイルの指定やアセットの生成が行えるというもの。読み込んだレイヤー情報をCSSに変換する機能があり、マウスオーバーでレイヤー情報を確認したり、コードヒントに反映させたりすることができる。

PSDファイルから読み取った情報をCSS化

サウンドもレイヤー編集

続いて「Audition」の拡張で、ひとつの音源から、音の種類に応じて複数のレイヤーに分割し、レイヤーごとの編集を可能にするというもの。デモでは電話の呼び出し音だけを消したり、ボーカルの音声と楽器の演奏を分けてそれぞれ編集したりする様子が紹介された。

単一の音源を複数の音に分けてレイヤー編集

Photoshopで特定の領域だけを加工

最後はPhotoshopで絵の一部だけを加工するという技術。建物群の中から特定のビルだけを選んで角度を変えるなどといった加工が可能になる。これまでも傾きの編集は可能だったが、特定の場所だけ傾けるということはできなかった。

さらに、複数の面を指定して3次元的に画像の加工を行う機能も紹介された。特定のオブジェクトのパースペクティブを変えることもできるらしい。

建物のふたつの壁面を認識して加工している様子

3次元的な加工が可能になる

バスの向きを道路の向きに合うように修正しているところ

なお、このセッションで紹介された機能は、今後の同社製品に必ず反映される保証があるわけではないので、その点は注意する必要がある。実験的なプロジェクトも多く、あくまでも"チラ見せ"と呼ぶのにふさわしいセッションである。とはいえ、実際に製品化を果たしたケースも少なくない。例えば「Photoshop CS5」で話題になった"物体を消す"機能も、かつてはSneak Peeksで紹介されたことがあるし、「Photoshop CC」に追加される予定の手ぶれ補正機能については前回のAdobe MAXのSneak Peeksでデモが披露されている。今後、今回紹介された新機能のひとつでも多くの機能が実際に搭載されることを期待したい。